枚方LRT研究会1周年記念シンポジウム
1999年5月22日
基調講演(1) 「LRTライトレールと交通まちづくり」
東京大学大学院教授 太田勝敏氏が語る
(当日資料の太田先生が配布されたレジュメを参照しながらお読み下さい)
(シンポジウムでお話しして頂いたその他の先生方のお話についても次号以降順次掲載していく予定です)
当日資料
みなさんこんにちは。ご紹介頂きました太田でございます。
今日は、LRTと交通まちづくりということでお話をさせていただきます。
交通まちづくりとは何だろうかと怪訝に思われるかもしれませんが、まちづくりというのはいろいろなまちづくりがありまして、福祉のまちづくりもあるし、緑のまちづくりもありますが、交通まちづくりというのは非常に大きなテーマであると考えています。
最近、コミュニティベースといいますか、市民の立場から交通社会を作っていくという、これは今までにも交通安全の関係ですとか、路上の駐車問題、あるいは駐車関連で商工業者とか市民の方々が一緒になって、誘導したり整理整頓したり、沿道で街路樹や花を育てたり、様様な形で参加するということがあったのですが、交通計画であったり、公共交通の運営そのものについて、市民として参加して行く意識を育てていく必要があるのではないか、そういったことを通してまちづくりを進めていきたいと考えております。
これは、当然公的なオフィシャルな意味での行政体が行っている交通計画というのがありますので、それを基本的なベースとしてその中身や実際の運営を市民の立場から、いろいろな形でアイディアや意見を出してもっと使い勝手のよいもの、あるいは工夫して改善していくということで考えております。
今日は特に、ライトレール、LRTの関係でお話したいと思います。ライトレール、これはLRTという日本語が定着してなくて、15年前、20年前でしょうか、ライトレールトランジットシステムをどのように翻訳しようかということで、当初は軽快電車というような訳があったのですが、どうもしっくりこない。違うのではないかということで、そのまま横文字をとったLRTが残ってしまったんですね。私もあまりいい訳がなくて、ライトレールという言い方をしております。
ライトというと軽量ということですから、少なくとも従来のヘビーレールというJRとか私鉄の鉄道とは違って、もう少し軽量な仕組み使って基本的には路面を走行する電車というのが大きなポイントであろうと思っています。昔からいうと、チンチン電車、路面電車というようなことになりますが、私はライトレールというのは路面電車ではありませんよと言っています。ライトレールは新しい革新的な交通システムですということを、ぜひ意識して頂いたうえで、その特性をうまくいかすにはそれなりのシステムを作らないと、せっかくのいい技術があっても、昔風の使い方ではお金ばかりかかってどうしようもないということになってしまいます。そういったことを一つのポイントとしてお話申し上げたいと思います。
そういった新しい技術を使いながら、まちづくりに活かしていく、まちづくりに結び付ける、これはどうしても新しいシステムの場合にはとくに重要であろうと思いますので、今日のようなタイトルをつけさせて頂いたということです。
はじめということで、背景として私の認識をいいますと、私が他の人と違って特別の認識をしているのではなくて、少なくとも交通計画や都市計画をやっている多くの人は、こういう考え方になっているんだろうということでお話したいと思いますが、これは日本だけでなく欧米を含めて、都市交通の課題に対して考え方が少し変わってきています。公共交通の重要性ということにつながるわけなのですが、多少お話しておきたいと思います。
そこにありますように、一番の問題は都市の中での交通問題の核心は、車との関係、車が少数の場合はよかったのですが、皆さんが使われるようになると、車というのは非常に便利ですから、そういう意味では非常にいい乗り物なのですが、皆さんが一度に使われると、社会的に大きな問題を引き起こしてきます。
ということで、そろそろ使い方について変えていかなければいけませんよという反省、車依存社会への反省ということで、各地で問題になってきているということでございます。
そこにあります昔から交通事故の問題、渋滞の問題、交通公害ということで騒音・振動の問題、これはもう30年以上前から言われているといいますか、70年代にいろいろな公害が全国レベルで問題になってきましたが、その問題は一向に改善されていない面も多いわけです。
特に、交通渋滞というのは地方都市でもラッシュ時だけでなく、日中1日中いつでも混雑している問題がありまして、なかなか解決していない。そういう状況があります。
それから、大気汚染関係は、例の70年代のアメリカのマスキー法で汚染物質の排出量を10分の1にしようというのがありましたが、日本でそんな事ができるのかと、自動車を作られている方は問題にしたけれども、結局それが契機になって日本の自動車の技術が進歩して世界の市場に自動車を売り込むことができたわけです。それだけ綺麗にしたのに、なお大気汚染の問題は一向に解決されていない。結局、車の数のほうがどんどん増えてきますから、一台一台をよくしたとしても、みなさんが使われますと、問題が深刻化していくということでございます。
そういった直接、自動車交通に関わる問題だけでなく、80年代からはまちづくりの問題、社会、環境、健康問題というように、生活一般の問題に拡散してきているというのが現状だと思います。
まちづくりの問題というのは、ひとつはスプロールの問題で、私たちは広い家に住みたいし、緑のあるところに住みたいということになりますと、郊外にどんどん出ていって安い土地のところに住むことになります。そういうところは、インフラの整備が高くつき、また、交通の面では公共交通が不便であったり、バスが経営上成り立たないということで、車を使わざるを得ない。そういった、都市の拡散による問題があります。
一方、都心の方では、商店街の衰退、シャッター通りと言われているとことがありますが、従来の店舗の経営が立ちいかなくなって閉まっている。せっかく作り上げた街の中心が寂れていくという、私どもから見ますと、先祖代々築きあげた社会的ストックが捨てられていく。これは単に物理的なストックだけではなくて、社会的・文化的ストックが一番蓄積している中心街がどんどん衰退していく。その代わり、郊外に新しいストックになるような、ショッピングセンターとかがでてくれば別なのですが、そうではなくて私から言わせれば、焼畑農業的な、儲かるときに4〜5年やって、他との競争に負けたら、空いたまま次のところに移っていくという商業形態(焼畑商業)がありまして、まちづくりという点で交通との関係を考え直す時ではないかというように思っています。
新しく大店立地法とか中心市街地活性化法のからみで、新しい動きも出てきていますが、そのなかでいままでのような問題が無くなるかといいますと、私はかなり疑問に思っております。新しい法律ができたといって安心するのではなく、それによって問題が深刻化する恐れもなきにしもあらずということで、注意しなければならないと思います。社会・環境・健康問題と書いてありますが、これから車社会に育ってきた人が中心になってきますし、高齢者の65歳以上の方で運転免許を持っている方は、昨年12月の時点で約3割おられるというのが全国的な状況です。これから10年、20年と運転免許を持った方が高齢化していくなかで、交通社会を考えなければいけない。公共交通は、これから違った意味で重要になってくると思います。というのは、通常の公共交通が使えないという意味での交通困難者は、これは障害者や高齢者だけの問題ではなく、健康な人が一時的に怪我であるとか、病気であるとか、あるいは大きな荷物を持つとかです。ある調査によりますと、若い健康な市民でも、約20%の人が普段でもそういう状況にあるという統計も出ております。絶対数でいいますと、通常は健常な人で、高齢でない方の方が多いというような数値も出ておりまして、そういう意味では必ず代替的な交通手段、車以外の使いやすい優しい交通手段を用意することが非常に重要であると思います。
それから、車で動いていたとしても、さらに高齢化すると、70歳、80歳になりますと、本当に安心して運転できるかというと、やはりどこかで運転をあきらめざるを得ない状況がでてくる。運転している本人から考えると残念なことですが、交通事故などのことを考えると、別の交通手段に移らなければいけない。
そういった時に、有効な代替手段があるのでしょうか。家族の人に運転して頂く、乗せて頂くということもあるのですが、それはどうしても遠慮がちになってしまいますので自立的な行動がしにくくなってしまいます。ということで、社会的な参加がどんどん減っていくと言う問題ですね。
これは、社会問題といういうことで、アメリカでは大変な問題になっています。結局、公共交通がすたれてしまった中で、そういった車を運転できない状況に陥ったときに、そのとき代替手段がなくてますます孤立していくという問題です。
アメリカなんかでいいますと、人種問題とか、少数民族の問題といいますか、そういう人は都心周辺に住まざるを得なくて、そこから郊外に移った職場にアクセスする公共交通がなくて、失業が増える。失業が増えると、暴発的なことがありますと、社会不安、都市暴動になってしまう。ロサンゼルスで暴動が起こったことを覚えておられると思いますが、実は同じ場所で1960年代にも起こっているのですね。
そのとき、アメリカ全体で都市暴動が起こったときの、アーバン・ライオットというのですが、そのときの原因追求をしたときの政府レポート(カーナー・レポート)で、その結論として、そういった場所で、これは都心周辺のスラム街ということになりますが、どうしてこういう問題が起こるかという中に、若い人の失業の問題、職場が都心にあったものがどんどん郊外に移ってしまった。郊外に移ってしまうとそこに行く交通手段がない。住宅を外に移せばいい訳ですけれども、アメリカの社会の当時の状況から黒人の人が外に住むことはなかなかできない。そういう状況から失業にならざるを得ない。
そのときの解決策の課題としてあげられたのは、公共交通の衰退と不振が原因の一つであるということで、交通政策が失業との関係という意味で、大変な社会的問題になった経緯があります。
幸い、日本ではそういう状況になっていませんが、少なくとも代替交通手段が無くなるということが、いろいろな意味で社会参加の道を奪われるということは非常にはっきりしています。私が心配するのは、車依存ということで自動車だけでやっていくと、代替手段がないというときに、自立的な動きが出来なくなるということで、孤立していって社会的な格差が生まれる、ということです。このあたりは、国際的に大変重要な問題だと思っております。
環境問題につきましては、最近は地域的な大気汚染、騒音・振動だけでなくて、地球環境という形でグローバルな課題になっています。とくに、二酸化炭素の排出ですね、エネルギーを使うものはすべてそうですが、日本の場合は、交通関係で排出するのは2割ぐらいということになっていますが、そのうち85%は自動車ということになっています。
実は、自動車関係は過去10年くらい統計をとってみると二酸化炭素の排出はどんどん増えている、産業関係は一生懸命努力して減らしているわけです。ところが、家庭関係や交通関係はむしろシェアが増えている。
最近、自動車メーカーも努力して燃費のいい車を作っているのですが、それにも関わらず絶対数が増えているので、CO2が増えている。そういう問題があります。
これに対して、何か手を打たなければいけない。各自治体レベルでもローカル・アジェンダ21ということになりますが、世界的に環境にやさしいまちづくりをしましょうということの一つの目標が自動車・交通問題だと思います。
健康問題は、排出ガスの問題でさまざまな問題を生んでいると思います。
最近は浮遊粉塵、微粒子SPMが問題になっていますので、これに対して何か対応が必要だと思います。今回、東京の石原知事の選挙公約で、健康問題で都心に乗り入れる車を規制してなければいけないのじゃないかと提案されて大変話題になってきております。浮遊粉塵の問題は、特にディーゼルトラックの問題になりますので、私ども交通問題を考えている人間からみますと、トラックの交通というのは、代替手段が少ない。ですから、人流であれば車でなければLRT、鉄道にというような代替手段があるじゃないかという議論になりますが、トラックの規制に踏み込むということにはなかなかならない。そういう難しい問題があるということがわかっているわけで、知事は随分と思い切った発言をされたなと思っておりますけれども、健康問題になりますと、どうもディーゼルから出てくる浮遊粉塵の問題をもう少し考えなければいけないということで、私ども東京の政策にアドバイスする上で悩んでいるところであります。
とくに、日本の場合は都市の中でトラックが非常に多いわけです。私たちは非常に便利な、安い物流サービスに恵まれていて、たとえばスーパー、コンビニで売っている弁当が時間指定で、ランチタイムに向けて、新しい弁当がたくさん11時頃までに入ってくる。これは、実は排ガスを撒き散らしながら、入ってきているわけです。その代わり、美味しいお弁当を自由に食べられるという状態で、またその後ゴミが出てくると、それをトラックで運んでいる。
私どもは、そういうものに依存しながら、便利さに慣れてしまったということですが、そろそろそれを見直したり、変えていかないと都市自体が成り立っていかないという状況になってきている。人のせいにするわけにはいかないということです。私どもが使う車、私どもの生活の仕方、買い物の仕方を変えていかないと、それが直接的に車の使用を減らしてゴミを減らすということではなくて、物流を通してたくさんの汚染物質を出しているということまで、思いを巡らして行動していかなければいけない。ということで、ライフスタイルとか、仕事の仕方を変えていかなければいけないという、大変大きな部分が多い。交通問題もゴミの問題と根っこは同じ部分が多いと感じています。
これは、大変難しい問題であると思うんですが、それに対して解決できないかというと、決してそうではないと思います。世界の都市をみますと、いろんな工夫をしています。今日お話しするライトレールもその一つで、公共交通ということで自動車交通に対する代替的手段、しかも魅力的な手段として十分に成立している、そういう仕組みを持っている地域が世界にはたくさんありますということをお話したいと思っております。
後、背景ということで、高齢社会、社会経済の変革、地方分散と規制緩和、財政制約というところが書いてありますが、こういった背景をご存知だと思いますが、とくに高齢社会と車との関係は先ほどお話しましたし、アチコチに健康で動けるということが大前提ということになりますと、車だけで動くのではなくて歩くこと、自転車をうまく使う、そういったふうに公共交通とは別な手段で考えていかなくてはいけないという面も大きいと思っています。
規制緩和と財政制約は、交通との関わりが非常に大きいと思っております。最終的に、自分たちの身の回りのことは、自分たちの責任で決めていくという方向に基本的に動いていくと思っております。
そのためには、自分たち自身が費用負担をしなければいけないといういうことです。公共交通につきましては、タクシーと路線バスは2001年に規制を緩和するということになっていますので、後2年ほどしますとバス会社は儲からないから止めようと思えば止められるということになっていくわけです。そうしますと、本当に必要であれば市民がお金を出してバス会社にやってもらう、あるいは市として自治体としてそういうサービスを始めていくかといった選択をしなければいけない。それを決めるのは市民の皆さんですから、それじゃどれくらいまでなら、お金を払ってそういった公共交通を維持していくかといういことを真剣に考えなければいけない。そんな状況になっているということで、こういった規制緩和の問題、あるいは財政制約の問題が出てくるということです。
そのときは当然、地方分権ということで、それに対する責任が地方に生じてきます。地方分権については、都市計画がどんどん地方へ降りてきておりますし、交通につきましてもそういう方向を推し進めていかなくてはいけない。あるいは、推し進めるように運動をしていかなくてはいけない。そのなかで、そのための地方財源をもてるような仕組みを考えていく、ということが必要かと思っております。
そういった背景のなかで、「パラダイムシフト」というちょっと難しい言葉を言っていますが、「交通計画に対する考え方、基本的考え方が変化している」のが「パラダイムシフト」です。そこに「新たな目標」ということで書いてありますのは、「持続可能な交通」ということです。この持続可能性という言葉は、皆さん環境問題その他でご存知かと思いますが、われわれの子孫に対して貴重な資源とか自然を残していこう、ということから出発したわけですが、交通関係ではこれをもっと広い意味から捉えて考えたらどうか、ということです。そこに(レジュメ資料に)あります「環境・生態系の面」だけではなく「経済・財政面での持続可能性」、あるいは「社会面での持続可能性」ということを、世界的には議論しております。
環境・生態系面のところにちょっと「安全とか健康を含む」と書いておりますのは、地球全体もいいですが、あるいは貴重な種の保存、生物種の保存ということも大切なんですが、……やはり直接的には人類そのもの、われわれそのものの生存、という意味での「交通安全」それから「健康」というのが、交通ではやはり一番ベースだろう、と思っております。
経済・財政面では、効率的な交通システムを作って、それが持続していくということで、公共交通については効率的な運営をする、と。そのなかで、きちんと「公共交通として存続するような仕組み」を考えていかなくてはなりません。これが財政面での持続可能性です。
それから、道路等につきましても、それがもっとも効率的に運営されていないと持続性がありませんよ、ということで入れております。
それから社会面ということは、先ほど申しましたように、モビリティ・移動のしやすさで格差を生まないように、その格差が社会的な格差につながるおそれが非常に強いので、それをなくすということが大変に大きな課題だと思います。
こういったことがらを含めて、「持続可能な交通」は、大きな目標としてはかなり合意されていると思っております。
それを具体的にすすめるためには、やはり、自動車交通をもうちょっと、適材適所で使い方を工夫していく、全体として抑制していくことが必要と考えます。
とくに、大都市のなかで、代替的な手段があるところ、あるいは非常に環境問題その他が激しいところでは、当然、車を遠慮していただく、あるいはきれいなクルマに替えていただく、ということが必要かと思います。
グリーンモード化と書いてありますのは、グリーンな手段、結局環境その他に影響を与えないような徒歩であるとか自転車というのがベースになります。それから、同時に、公共交通ということで、マイカー・トラックで動くよりは、もう少し効率的に、問題のない形で動く仕方もあるんじゃないかということで、公共交通その他が出てくるということであります。
そのときの考え方が、「既存施設の有効利用と、マネージメントの時代」と言っておりますが、今までやはり高度経済成長のなかでの交通計画というのは、交通の需要、人流にしても物流にしてもどんどん増えてきますので、それをとにかく収容すると、そうしないと渋滞その他で大変だ、ということで、それが一番確かに効率的なやり方であったのかもしれません。これは、「道路の新設」あるいは「交通施設の新設」ということを中心にやってきたわけですが、どうもそれは限界がきているということです。
これからは、やはり現在できているものを、うまく、新しいニーズに合った形で使っていく、ということが第一ということです。とくに、有効利用ということで、うまくそれをマネジメントしていく。そういう意味では、そこに「交通需要マネジメント、TDM」と書いてあります。
私は、大阪の方はあまり知りませんけれども、枚方市等でも交通需要マネジメントということで、たとえば、「相乗りをしていただく」とか、あるいは「シャトルバスに乗り換えていただく」とかですね、パーク&ライドをするとか、いろいろなことをやられているか知れませんが、そういった形で、できるだけ公共交通なり、クルマから他の交通手段を使っていただくという種類のものですね。そんなことを重視する。
私の考え方から言いますと、これは、クルマの使い方についてのマネジメントといいますか。新たに作るというよりは、「現在あるクルマ」、「現在ある公共交通」、「現在ある道路」をもう少し、私たちにもっと都合のいい形に変えていきましょう、そのなかで使い方を変えていくソフトの施策、というふうに考えております。そういった部分が非常に重要であろうと思います。
そういった全体の背景のなかで、基本的なものは今、「クルマ依存」だとすると、クルマに代わる代替的な交通手段をきちんと確保していく。これが一番の基本になるという意味で、公共交通の重要性がでてくるということであります。
公共交通の役割として、そこにあります「都市交通の効率化」という大きな目標、それから、「モビリティの確保」、そして、「環境・まちづくり」と、非常に簡単にして3つ挙げています。
まず、「都市交通の効率化」は、ひとり一人がマイカーで行ったのでは、とても道路は作りきれません。だから、もう少しまとまって行きましょう。相乗りをしたり、公共交通、バス・鉄道で行くということで、効率化するという話です。エネルギーの点でも効率化されます。それから、トラックにしても共同輸送ということで、まとまって運ぶ、あるいは大型車をうまく使うということで効率化する部分があるだろうと考えます。
それから、「モビリティ確保」は、先ほど申しましたように、すべての人が何らかの交通手段をきちんと、いろんな状況のもとで確保しているということが重要だという意味で、そのときに公共交通の役割が大きいということであります。
「環境・まちづくり」は、今、申しましたいろんな環境対策、あるいはまちづくりという意味で公共交通が誘導していく、あるいは、環境負荷を減らしていくという役割が大きいかと思います。そこに、建設省の都市計画中央審議会の答申の一部を入れておきましたが、代替交通手段として、ある程度の距離を動かなければならない、ということになりますと、徒歩・自転車というのでは限界がある。ということで何らかの動力系のもの、バス・鉄道・LRT・その他の新交通ということになりますが、そういった公共交通が必要だろうというように言っております。
ようやく都市計画レベルで、公共交通は「都市の装置」である、という位置づけができました。実はこれは、都市の装置であるということは、公共計画の対象として「都市計画のなかで認知していきましょう」ということで、大変重要な意味を持っているわけです。
都市計画の施設として認知するということになりますと、そういうものをきちんと作るという計画を作る。計画を作った路線その他については、都市計画決定ができる。ということは、建物などをそこに建てるというようなときには、それが制限できるというような規制的な面があります。
もう一つは、実際に作る段階で「都市の装置」として公共サイドがそれに対して支援をする、建設をする、ということができる道が開かれてくるという意味ですね。ただ、あくまでもこれはまだ「装置」という段階です。
実際に走らせるためには、車両がなくてはならないわけです。ライトレールは、あとからお話がでると思いますが、1両当たりのコストが非常に高いということで、完全に民間でやるということになりますと大変です。ライトレールに対する車両面での補助がないと、なかなか導入できないということがあります。
そうした補助が必要だということですが、今は、そういう仕組みはありません。都市計画中央審議会は、建設省の審議会ですから、実は縦割り行政のなかで、そこまで建設省の権限がないということで、「装置」という言い方になっています。議論の過程では、車両の問題その他についての公共交通としてのあり方については、議論されていると聞いております。
公共交通の位置づけを、私はそのように考えておりまして、いろいろな形でそれを推進していかなければいけない。そのためには、最後に申し上げたいと思いますが、公共交通の役割を位置づけてそれをいろんな形で支援するということになった場合、その「主役は誰ですか」という点です。結局、新しい仕組みのなかで、自治体レベルにだんだん移っていかざるを得ないでしょう。先ほどの地方分権化、あるいは規制緩和ということですね。この点は、やはり市民としてそれに参加する責任があると思いますし、それは、市としての大変重要な役割を今後ますます担っていくだろうと思います。
それでは、ここで少しライトレールの特徴ということをお話したいと思います。
私どもはライトレールを中量の輸送機関と呼んでいます。
輸送機関は輸送能力の点から、大量輸送、中量輸送、少量輸送に分けられますが、公共交通につきましては、大量輸送は鉄道、あるいは地下鉄とか都市鉄道です。
少量輸送は、本当に小さいのはタクシー。私はタクシーも公共交通に位置づけています。それからバスもそうです。
中量とは、その中間ということになりまして、中量輸送機関としてはモノレール、新交通システムがあります。時間あたり5000人〜6000人から1万人〜1万5千人という形で人を運ぶ分野ですね。そういった分野の交通手段というのが、一つの大きな特徴かと思います。
技術的には、ライトレールは地表面、路面を走るということが一番大きな特徴であることと、それから専用空間といっていますけれども、専用通路をもつことです。従来あった路面電車が、機能を果たさなくなったというのは、同じ路面に自動車が入ってきて一緒に走るという形で、自動車の渋滞に巻き込まれてしまって、どんどん速度が落ち、信頼性がなくなったというふうに言われております。
それに対する反省として、できるだけ専用通路を走るということです。路面を走ったとしても、その軌道内には当然、他の自動車を入れないということになりますし、できるだけ、同じ地表面を走るとしても、一般の道路とは分離された専用の空間を使うという形になってきています。
ただ、あくまでも路面・地表がベースである。特殊な場合、どうしても鉄道を越えるとか、都心部で空間がないから、地下に入ったり高架にするということは、一部分ありますが、基本的には路面走行ということが特徴かと思います。
そういう種類の交通手段として、そこに「速度信頼性が高い中量輸送システム」という特徴を書いています。
「速度信頼性」というのは、先ほど言いましたように、ほかの交通渋滞などに巻き込まれずに、きちっと定時刻で、ある一定速度で走れますよ。いわゆるバス等とは違いますということです。これは、専用通行空間をもっていれば、どの交通手段でも一応可能なことであります。
一つの大きな特徴は、やはり地表面の乗降で、ノンステップ車両であるということで、高さが路面から30cmとか、今いちばん低いのはウイーンのもので20cmくらいのものとか、ものすごく低いわけです。高齢の方でも容易に乗車できますし、車椅子等の方につきましては、電停の工夫でそのままでも乗り込めますし、あるいはスロープを出すことも簡単に乗車できるという形です。
路面を走るということで、外からよく見えて、どこを走っているかがわかるし、乗降も非常に楽だということで、「アクセス性が高い」と書いてありますが、これは乗降も楽だし要するに使いやすいという意味です。そういった特徴があります。
地下鉄・新交通システムはどうしても路面ではなくて、地下へ行ったり、高架で行ったりということになりますと、いくらエスカレータやエレベータがあったとしても、非常に使いにくいという状況があるのですが、それに対して効果が大きいということです。
それから「低コスト性」。比較的、他の軌道系、地下鉄や新交通と比べると、かなり安いということになっています。インフラと書いてありますのは、線路部分なのですが、これは道路の一部を使わせていただくということで、占用料をもし払ってもほんのわずかですから、基本的には道路上を走っているのですから、そこを走っている限りは非常に安いということと、地表ですから、いろいろな構造物が地下に比べて非常に安いということ。
これは、実際のLRTを建設してみないと正確にはわかりませんが、今は建設費が1キロあたり10数億円といわれています。特別な立体交差がない場合ですね。
ちなみに、新交通システムなどは1キロ当たり80億円から100億円。地下鉄は、最新のはどんどん深くなっていますし、だいたいキロ当たり250億から300億円という形になっています。それに比べれば、10億が3倍になって30億になったとしてもですね、非常にインフラとしては、安いということになると思います。
それから、「環境性」と書いてありますが、まあ排ガスがない。もちろん、電車ですから発電所での排ガスがでる問題はありますが、一応、少なくとも自動車と比べますと排ガス問題が少ない。低騒音・低振動などは、いろいろな技術的改良がなされております。
軌道の緑地化は、これはずいぶんヨーロッパの路面電車はやっております。芝生が植えてあって、芝生のなかを線路が走っている。騒音も小さく、全然見え方が違いますし、雰囲気というか、グリーンの景観のいいものがでてきております。
それから、「まちとの親密性」。やはり地表を走っていて、それからデザイン等を工夫しますと(海外の事例等も紹介したいと思いますが)、非常に新しい斬新なデザインができますから、いろんな形で、街にあった形の可能性がでてきます。それから、乗降のしやすさでの親密さが増します。このため、街のシンボルとして使うようなところがたくさん有ります。
これは、新しい交通手段というのはどこでもそうですが、単に交通のためだけではなくてそれを使って街の個性を作るとか、街並みを作って行く中の一つの主要な要素としてやっていく、そういった形があります。シンボルというのも大変重要な条件になると思います。
それから「歴史とのつながり」。これはとくに今まで路面電車があった街ですね。そこで、もう一度路面電車を復活させたという街がいくつかあります。そういうところでは、昔の記憶のものを、新しいシステムの中で入れる。昔のシステムそのまま作っても仕方がないですから。そこに、新しい機能をもった形で、交通の便を高めていく──そういうやり方も、十分可能性があるシステムというように考えています。
それから「まちづくり、中心市街地の再生・活性化の契機」ということですが、これは現在、いろんなところで、新たにやろうという場合、交通のためだけに電車を作るというのは、乗客ということだけで作るのは非常に難しい、という問題があります。当然、バスよりも大量に乗客を運ぶ手段がいるという場合はありますが、どうも、お客さんの運賃だけで料金を払って、あるいは建設費を賄うというのはかなり難しい面があります。
もっと、まちづくり全体のなかで、意義を見つけていくというのが重要だと思っています。その一つが中心市街地の再生ということで、ヨーロッパの都市やアメリカの都市は、非常にこの意味が大きいですね。都心にやはり、誰でもが動きまわれる交通手段がほしい、それも、目に見える形がほしい。バスを使うこともありますし、LRTを使うこともあります。
そうなりますと、街の中を走らせますから、街にふさわしい形のデザインとか、大きさとか、乗降のしやすい形に作る。当然、駅の作り方もいろんな工夫がしてあります。そういった形で、ライトレールにはいろんな特徴があります。マイナス面も当然あります。あとからちょっと課題を申し上げます。
それから、もう一つ気をつけなくてはならないのは、先ほど言いました中量輸送機関ということになりますと、実はいろいろな他の交通手段があります。そこに量が大きければ鉄軌道ということで、ミニ地下鉄、モノレール、新交通システムといったものがありますので、それとの得失を議論しなくてはいけないでしょう。
それに、バスも実はどんどん進化しております。新しいバス、あるいは新しいバスの使い方と比べてどうかということを議論しなければならない。
「ガイドウェイバス」、これは新交通の前段階というような形に日本では捉えられていますが、現在、名古屋の志段味線というところで新たに建設が始まっております。新交通システムの軌道とまったく同じ軌道の上を、バスが車輪の横に補助輪をつけまして、通路から外れないようにして動くという形です。そのなかでは「運転手さんはもうハンドルをさわらなくてもいいですよ」ということが、一応可能な形になっています。それから外れた郊外に行きますと、一般の道路上を自由にお客さんを集めて動きまわる、ということもできます。さらに完全に自動化するということも可能です。ま、そういったガイドウェイバスの技術があります。
あるいは「バスウェイ」ということで、既存のバスをうまく使う。バスを中心に交通をさばくということで、バス専用道路でやる。これはもちろん建設費が安いということもありますし、専用道路をから外れる場合は一般道路を普通のバスと同じように走ればいいということです。実は、カナダの首都のオタワは、このバスウェイという形で主要な交通軸を形成しているという例です。
そういった、完全なバス専用道路は難しいので、中央走行方式バス専用レーンを使う例(これも名古屋にございますけれども……)そういったバスレーンで都市軸を作っている例で、クリチバという、世界的にはとても有名なブラジルの都市ですけれども、そんな例もあります。
これは交通量が、それほど多くないところですが、といっても1時間あたり1万人から1万5千人もの輸送能力が、バスの走らせ方等をかなり工夫すれば可能です。
それに、バスでいちばん時間のかかるのは乗降のときですから、入り口で切符を買ったり、乗り降りで払うというのは、もうやめてしまう。バス停をひとつの駅みたいに考える。駅に入るには当然、あらかじめ切符を買います。バスが来れば後ろの扉からでも、中ほどの扉からでも、前の扉からでも、自由に乗り降りできます、と。これで実は相当、乗降時間が短くなる。乗降時間が短くなるからスピードアップができる、というシステムです。
これは、システム全体としてやらなくてはならないですから、それなりの工夫は必要になりますが、そんな仕組みもあります。
このようにライトレール以外にもいろいろな中量輸送ということがある。そのなかで、自分の街にふさわしいのはどれか、ということを考えなくてはならない。また、技術的にはいくつかの可能性がありますが、では、日本では導入できるかという問題もある。
実は、まだ、法制度が非常に整っていない。インフラ補助も十分ではない。課題のところで、「財源・採算性」とちょっと書いてありますが、インフラ補助は開始されたと先ほど申しましたように、建設省のほうで都市モノレール・新交通と同じ様な形で、一応、道路渋滞問題に対して貢献するという考え方が主たるものです。
一応、「通路部分」、通路の線路より下の部分については補助しましょう、ということです。また、センターポールといって架線を使うところですが、真ん中を1本の支柱にしてそこから両側に伸ばすという形の、非常に新しい、デザインもよく見栄えのいい簡素化されたセンターポールを作るとか、あるいは、電停の設備についても補助しますということです。しかし、車両補助がないということが大きな課題です。
それから、導入可能性でいちばん大きな問題となりますのは、用地確保の問題です。
現在、路面電車が海外で増えていますが、前にあった路面電車の跡地、あるいは貨物線、や現在あんまり使っていない鉄道のような、既存の空間を再利用・リサイクルして、新しいものを入れようというのがかなり多いようです。
一方、新設して作るという例もいろんなところでありますが、これは、まちづくりと一体としてやらないといけない。新たな拠点開発とか、新たに郊外でいろいろな大きな公的施設を作るといったとき、それに合わせて道路と一緒に作ってしまうという種類のことをしなければいけません。
そうでないとすると、残りは車道を使って、現在ある道路をうまく使って、という形です。これは、「道路空間再配分」ということになっていますが、既存の道路交通とのすみわけの仕方を変えると、「この道路は、どうも人もどんどん増えているし、街の真ん中にあるからもう少しクルマを制限してもいいんじゃないか」ということで、一般の自動車を制限して、ライトレールや歩行者の空間にしてしまう。このやり方は、ヨーロッパでは都心の再開発・都心の再生に随分成功していると思います。
まちづくりの過程で、商業者は最初のときには、クルマがこないとお客さんもどんどん減って、困ってしまうんじゃないか、ということで反対が多いのですが、きちんとした魅力的な歩行者空間を作りますと、その方が実はお客さんが増えたという例が、ヨーロッパではいろいろ出てきました。歩行者空間という形で、中心部を歩行者専用にして、クルマのほうはちょっと外側に止めていただいて、歩いてもらったり公共交通に乗り換えていただくというのが、これはもう一つの原則(フリンジ・パーキング・システム)となっております。
そうした面では既存の道路空間の使い方を変える。今まで一般車が入っていたのを、歩行者用にしましょう。あるいは、そこにライトレール、バスなどの公共交通は入ってもいいですよという形が、実は「トランジットモール」という言葉で、これは一つの技術用語として定着しております。
皆さんがヨーロッパのドイツなどの都市に行きますと、歩行者空間のなかに、ミニバスが入ったり、ライトレールが入ったりという光景をみます。それが、トランジットモールで、市民の合意を得て、既存の道路の使い方を変えたわけです。
そういったことは、日本では全然ないのだろうか、ということですが、私は、地方分権という形で地元で交通改善を考えていくことになった場合、そのような機会はどんどん増えてくるだろうと思います。
今のところは、こういった道路空間再配分は、バス専用レーンを入れるということで、一般車を多少不便にしてでも、バス専用にしますということが少しづつ始まっております。
それから、多少歩道を広げるということがあろうかと思いますし、次の段階としては自転車の走行空間を作る、あるいは、こういうトランジットモールという形で公共交通を入れていく、ということが十分考えられると思います。
ヨーロッパへいきますと、「時代によって道路の使い方を変えるのは当たり前だ」と考えられています。道路というものはローマの昔からありますもので、その上を走っているもの・使い方は時代にあわせてどんどん変えていきます、という考え方なわけです。
従来、日本の建設省といいますか道路を作る側は、やはりとにかく道路が足りないから、クルマのスペースが足りないからということで、クルマ中心に道路を作ってきましたけれども、そろそろ新しい考え方が段々入ってきているというふうに、私は考えています。そういう方向は今後、加速させていく必要があるし、そういうふうにだんだん移っていくだろうと思います。ただしこれは、全面的ではありません。やはり、都心部であるとか、非常に空間が限定されているところで、他との競合のなかで、新しい空間が公共交通にとれないとすれば、今まである道路空間の使い方を変えていきましょう、ということになります。これは、今までの使っている権利を抑えることになり、自動車の使い方を抑えるということになりますから、利用者の合意、市民の合意がないとできないということです。まさにこれは、それぞれの街で市民が決定していく課題というふうに考えております。
それから、「システム化の課題」とありますが、新しいライトレールは非常に技術的にはいいのですが、既存の交通機関がありますから、それとの使い分け、組み合わせですね。
とくに問題となりますのは、既存のバス事業との調整です。結局、一番バスがもうかるところが、やはりLRTが必要なところということになりますから、そこに置き替えるということになりますと、事業者との調整、あるいはバス事業者に参加してもらうとか、いろんな形での調整が必要になるかと思います。
規制緩和のなかで、一方でバス事業者がやめたい路線もあります。経営的にはかなり厳しいなかで、「ドル箱路線をライトレールにとられちゃったらどうしようもない」という事情もございます。
そういう状況であれば、市民全体として、バスもある程度きちんと存続してくれないと困りますし、ライトレールも入れるということで、お金のやりとりなりその他の支援の仕方を、トータルに考えていかなければなりません。ということは、バス事業者もいろんな形で知恵を出し、お金を出すことが必要ですし、市民のほうもお金を出したり、知恵を出すことが必要です。
そういったいろいろな利害関係者が調整して、まちづくりを進めるということにならざるを得ない、と思っています。
そんな課題がありますけれども、ひとつの大きな技術的な可能性があり、また新しいまちづくりのきっかけになっているということで、是非こういったライトレールというのを考えていただきたいと思います。
「都市交通手段の適合範囲」ということで、これは実は建設省がこの20年くらい規範的に考えていることなのですが、バスと地下鉄・鉄道との間ぐらいの中量という意味と、トリップの長さでもどちらかというと、この図では近距離的な部分で適切な交通手段がありません。この間(トランスポート・ギャップ)を埋めるものとして発生してきたのが、新交通システム、あるいはモノレールということになります。
LRTはこの新交通システムやモノレールの範囲をもう少し拡大したものといいますか、この範囲を中心にいろんな可能性が出てきていると考えています。
「日本の路面電車と(ドイツの例ですが)トラム・ライトレールの技術的特性」ということで主要な点を示しています。
これは、昨年、一昨年になりますかね、ライトレールの国際シンポジウムをした時、ドイツの先生から日本の路面電車というのは博物館ものだ、世界でこんなめずらしい、いろんな路面電車を動かし、しかも昔のやり方でやっている国ということで大変皮肉なコメントを頂いて困ってしまいました。
要するに今ある路面電車は彼らの目から、見れば百年前の技術をそのままやっているだけだと、何かといいますとそこにあります比較をして頂きますと、交通路併用軌道で一般の車と一緒にしている、あるいは専用されてないということが大きいと思います。最高速度40q、これは関連する法規は軌道法と書いてありますが、実はがんじがらめに昔の路面電車の時代の法律で大正時代、明治の終わりの技術のままの法律で今までの運行なり建設が全部しばられています。皆さん関心を持ってなかったということでそのまま残ってきたわけです。それが新しいライトレールの時代に合ってませんということになるわけです。最高速度が時速40q、平均速度では現実には、16.5q、最大車両延長30mということで軌道法で制限されています。それから輸送力はいろいろな仮定で計算するのですが4000人程度。それに対して同じドイツの路面電車は1万5千人ぐらい乗せて走れる。それからライトレールという私が申し上げます新しい技術を使いますと2万人くらい日本でいう地下鉄のレベルが技術的に可能だということです。それから軌道、通路の幅ですが最小曲線半径、日本は走るのが遅いですから、かなり急カーブでも入ります。それが一つのメリットになるかと思います。勾配が40パーミリ、1000m当たり40mということになるのですが、ところがトラム、ライトレールはもう少し急勾配でも十分入れます。仙台で議論したところ問題になりましたのはこの勾配の問題で、軌道法の勾配が40パーミリということになっています。道路では6パーセントというのが基準ですがいろんな例外規定があります。こういった技術規定がありますと、本当はライトレールを入れたいけど、今の軌道法が生きている限りは建前上、ライトレールでは坂を上りきれません。技術的には上れますが、その辺の問題といいますか、おかしな話がでている。で、先ほど申し上げましたのは、こういった新しい交通手段が技術としてはあります。ただそれを受け入れる社会的な仕組み、「軌道法」という面で、実はそれを改正しない限り、新しい有用な技術が使えないという大変おかしな状況であるというのが今の現況です。
以上のような状況からライトレールを日本で進めていく上で重要なのは、関連する仕組みを変えていく、これは今、技術的な基準を見直して変えていくというのがひとつでありますが、もうひとつ経営の問題がかかわります。やはり、公共交通機関を市民としてどういったように位置付けていくかというところです。これは、財政的な支援をどうしていくかということになりますが、いろんなデータがでていますが、申し上げたいことは、公共交通手段それぞれ非常に頑張っていますが、もうこれを運賃だけで採算ベースで経営していくことは、欧米では少なくとも、もうこれは一般的には不可能と言われております。自動車がこれだけ発達した中で結局公共交通を運賃収入だけで賄っていくのは難しい。運賃をぐっと値上げすればいいですが、そうしますと公共交通から車に移ってしまうということがありまして、独立採算での経営はもう無理だというのが、欧米諸国の結論です。そのため、1960年代・70年代からだんだん車が増えていく中において、公共交通を、公共的に支援していきましょうという形になってきているのです。
問題はむしろ、公共交通に移った時、サービスがどんどん良くなるかもしれませんけれども、そのつけです。結局、市民が税金で公共交通サービスの赤字を払わないといけないということから、それを効率的にやってもらわなければ困ると言うことで、競争的な仕組みを入れ効率化をはかりながら自治体が支援しながらやっていくという仕組みを作っていくということです。
そこに、運賃収支率ということで、運賃収入で経営費用をどの程度賄っているかということですが、日本は独立採算性ですから、100パーセントに限りなく近くなっています。ところが他の国は、アメリカの例では24パーセントと言うデトロイト市がありますし、フランスの例で低い方では、パリの43パーセントというような形でということになっています。
資本費用はいろんな施設の費用は当然、これはもう公共でやらざるをえないということで、車両・駅・その他を全部公共が作った上で、毎日かかる運転の諸経費・電力費、そういったもののまあ半分まで、運賃で賄えればこれはそれで良いとしています。つまり公共交通システムに対する考え方が違うということです。公共交通はやはり市民にどうしても必要なサービスということで、これはもう電気・ガス・上下水道と同じで、基本的な施設はもう市の公共負担でやりましょう、その運営費用の一部を運賃なり料金でとりましょう、という仕組みです。
私が、日本の仕組みで、いまの規制緩和の中で、最後にやはりこれは市民の選択と申し上げましたのは、ここで、それでは「公共交通がなくてもいいよ」という形の市があっても、それはその市民の合意であればそれは仕方がないと思いますけれども、どうもやはりそろそろ決断をしないといけない。ただその場合の一番の問題は、その時に公共交通がやはり効率的に運営される、そういう仕組みと合わせていかないと、とても市民の税金では払いきれないということなので、そこを各国が非常に苦労している、ということです。運営方式はそれぞれ色々な方式でいろんな形でやっています。実は市が単独でやるのは難しいので、通常は市の連合、要するに交通っていうものは市域では完結していないということで、通常は通勤圏、都市圏が一体的になってこういう仕組みを作り、いろんな形で交通のための地方財源を国が認めている、そういった法的枠組みがあるということです。国自身がそれぞれの公共交通、或いは都市全体での交通計画を市に任せて、その為の財源を任すということです。この辺、実は日本ではまだそういう仕組みになっておりませんから、ただこれは早晩、そういうことを議論せざるを得ないし、やはり自治体としてそういうことを要求していくべきだろう、そういうように思っております。
ちょっと時間をいただいて、最近のトラムの状況・街づくりとの関係を、(OHP)見て頂きたいと思います。ところで、ライトレールと公共の街づくり・事例を中心、ということですが、欧米で「路面電車のルネサンス」ということで、もう一度見直そうという動きが進んでいます。これはいろんな所でみられていると思います。ストラスブール、フランスの都市ですね、ここで、総合的な都市交通政策といいますか、都市交通づくりの中で進めているということで、一番注目されています。そこで路面で地表からそのまま乗降できるような、そんなLRTシステムを入れている。デザイン的にも斬新で、これは世界的にもショックを与えました。「ああ、路面電車でもこんなことが出来るのか」「これは路面電車ではないんじゃないか」と。イメージ的にも、もうこれは次世代といいますか、ライトレールということになりますが、こういう地表レベルで完全に優先化されたトランジットモールを入れているという例です。特にイメージアップということで大変成功して、その時の市長さんがたしかフランスの大臣に抜擢されています。
それから実は路面電車でも新しいのがでています。これは最近フランスの技術(TVR)で、ゴムタイヤを使った路面電車ですね。真ん中の中央の所に案内輪が入っておりまして、あとはゴムタイヤ、それから電気を上からとる形、ですからこの辺になりますと、トローリーバスとどう違うのかと。そんなことはどうでも私どもは良くて、市民の側からは使い勝手がいい安いものができればいいという事なのですけど、ゴムタイヤを使うという事は、勾配が急な所でもできるのではないかという様な新しい可能性がでてきています。このシステムはフランスのカーンで入れようということで今、計画中ですし、あと、パリの郊外で実験線が走っているということで、ヨーロッパ視察旅行でもし機会がありましたら、みていただければと思います。
それから、ドイツのカールスルーエという所ですが、路面電車と既存の電車との結節ですね。路面電車が外へ行くと、日本でいいますとJRの線路に入ってしまう、という種類の、私ども、東京・大阪でやられていると思いますが、鉄道相互間、地下鉄との直通運転というものをやっていますが、ドイツでは今、2都市が路面電車と一般鉄道の相互乗り入れをやっております。こんな形で、要するにネットワークとして広げていくこともできる、という例です。
最後にドイツのフライブルクの例です。世界で初めて環境定期券を始めたのがフライブルクで、環境に優しい街づくりで大変有名なところですが、実は、そこで路面電車と合わせて、新しい住宅地づくりをやっている。これはフライブルクの路線ですが、鉄道駅らしきものが、あそこにちょっとグリーンの丸印があります。リーゼルフェルトですが、新線を延ばして、これは下水道処理場の跡地ということなのですが、そこに新しい住宅街を開発する、一万人程度ですね。これを路面電車の延伸と一体的にしている。ということで、新しい住宅開発に合わせながら、路面電車を作りました。実はこの街は、車のない住宅街といいますか、そういう一角を全てではありませんが一部分をそういう形で作りました。車は一世帯に一台の車庫を作る必要はないのではないかと。もう、ぐっと減らして、お客さんの分だけ作ればいいよという形で路面電車を使うということ。もう一つはですね、カーシェアリングという車の共同利用です。共有のレンタカーを住宅の玄関の所に一棟あたり1台〜2台あれば、別に一人一人持たなくてもいいでしょう、という形の新しい住宅地づくりをしています。ということで、私は、車の方でも共同利用ということで、新しい試みがありますし、それとそのライトレールがうまく組み合わされた、大変面白い例かと思います。実はこういった種類の、車のない住宅地というのは欧米各地で始まっています。車の共同所有、共同利用ということですが、実は今、東京でも住都公団の団地の建て替えの中で、車庫を作るのはべらぼうに高い、と地価1台あたり2000万円位になるような例もあるようですから、それだったらむしろ駐車場を減らして、その代わりにこういうカーシェアリング、レンタカーなり、レンタサイクルがいつでも使えるとそういう仕組みを入れたらどうかということを、今勉強しております。これからは電気自動車などを使ったそういうものとか、そんなものができるかと思います。
そんな中でライトレールをうまく使って、街づくりをするというのがフライブルグの例です。リーゼルフェルト、この赤いのがその路線図です。グルッと廻るループ式で、単線ループになっています。この路線の電停の近くに高密度の開発をして、その外側が通常の住宅地となっています。この中の一角が車のない団地ですね、そんなものをやっているということです。
これが下水道処理場の跡地の状況です。もう線だけ入っています、線路が入っているのが見えると思います。この車両が入ってくる、という形で、かなりもう進んでいると思います。そんなものも、ひとつの考え方としてあります。
最後に、期待ということで、21世紀の街にふさわしい都市交通システムとして考えたらどうかという事ですが、その場合には、車道空間のリストラみたいなことを、やはり市民の側から問題提起して合意を得ていくことが必要ですし、交通というだけでなくて、街づくりの中にいかに位置付けるかというのが、一番のポイントだろうかと思います。また、パネル・ディスカッションがあるようですから、またいくつか御質問等がございましたら、お話申し上げたいと思います。ちょっと時間が長くなりまして、失礼しました。