第8回LRT研究会報告

『鉄道事業と関係法令』

 工学博士、技術士 関西大学講師
(元大阪高速鉄道常務取締役)
岡 尚平先生 が語る

はじめに

 日ごろお世話になっています長山先生から「枚方LRT研究会で、路面電車の法令を解説してください」の依頼を受けました。私自身大阪府で軌道法の監督業務に長年従事しましたし、また伊丹空港から門真まで伸びている大阪モノレールの建設・運営に深くかかわっていましたので、気軽にお引き受けしましたが、さて壇上に登ってみまして皆様方にわかり易くご説明できるか不安です。

 当研究会の方々が街の活性化や都市景観への役割、交通公害の低減のために、近代的な車両構造で高齢者や障害者にもやさしく、停留所で待っていると次々と電車がくる便利で、地球環境にもやさしい公共交通機関をご研究され、さらにヨーロッパをはじめ諸外国のLRT路面電車をご視察され、枚方にも是非同様のものがほしいとの熱意でご努力されておられるのに敬意を表します。LRTと呼ばれているものも、日本の法令に当てはめますと軌道法が基本法令になると思います。それでこの法令の主旨に沿って、建設・運営するために消化していかなければならない主要な項目を話させていただきたいと思います。各項目を章立てにして説明を続けていきたいと思います。

1.管理基本法令から

 鉄軌道事業には2種類の法令があります。路線毎にどちらかの法令の定めに従って許認可を受けることになります。概してLRTは軌道法が適用されると思います。これは原則として道路のなかに軌道を敷設して運輸営業を行うもので、運輸省・建設省の両大臣が主務し、地元の窓口は運輸省近畿運輸局と大阪府土木部道路課にあります。大阪では天王寺駅前から住吉神社へや恵比須町から浜寺へ走っている阪堺電車がこれにあたります。もう一つの法令は従前の国鉄法と郊外電車の地方鉄道法が合体した鉄道事業法で、原則として、線路を道路敷地外に敷設する阪急電車・京阪電車などと思ってください。これは運輸省が主務しています。

 しかしながら、この法令の原則論は必ずしも一般常識と整合していません。道路の下をトンネルばかりで走っている大阪の地下鉄、正式には大阪市電気軌道は前者ですし、近鉄東大阪線の高井田〜新石切は前者ですが、その先の生駒へは後者の法令を基本にしています。あるいは歴史経緯からつい近年まで 大阪は軌道法、東京は地方鉄道法の割り振りもありました。またかっては阪急神戸線、宝塚線、京阪本線は前者に、阪急京都線、京阪交野線は後者に帰属していました。明治新政府時代からの中央省庁の縦割り行政を色濃く残していました。2001年には中央省庁の再編成が行われるので、このあたりの基本法令の主務をどの部局で所掌するか興味のある話しです。

2.経営責任を持つ事業主体の側面から

 鉄軌道の許認可を得て建設し営業を始めますと、沿線住民の便利な公共交通機関となります。利用される乗客から運賃を頂いて経営していく独立法人組織となります。その収益の金額合計は利用者数に運賃を掛けたものです。運賃が高すぎると利用者は減りますし、頑張って低額にしても利用者数には沿線事情から推計される程度で限度がありますので、いまや日本といわず世界中の鉄道事業者は構造的な赤字に苦しんでいます。代替交通機関として道路の整備と自動車の普及があげられますが、戸口から戸口への便利な個別交通手段の車社会を制限するわけにはいきますまい。

 歴史を時系列的にみていきますと、明治末期・大正・昭和初期には行楽観光が盛んになった時期があります。野崎参りが寝屋川を上る屋形船から浪花電気鉄道による鉄道営業に移ったのは明治28年で、現在はJR学研都市線に引き継がれています。あるいは京都〜大阪の淀川を行き来する三十石船に代わって民間起業家が現れ、明治43年に京阪本線を敷設し運輸事業を始めました。当時は農業社会ですから人々の暮らしは狭い町域で、遠隔都会へ通勤することは稀でした。したがって移動のための公共性が低く、運賃も結構高額だったと思います。私も子供の頃には一駅先から乗ると運賃が安いから倹約しようと隣の駅までよく歩かされたものです。ところが現代は自由に安価に移動できることが社会生活の必然になっていますので、運賃は公共料金として認可制になっています。したがって昔からの物価の上がりに比較すると非常に低く押され込まれています。直接利用する人々にとってはありがたい話しなのですが、運輸事業者にとっては全く苦しくて その穴埋めに間接的な税金が使われています。鉄軌道からの過疎地でもある程度の道路整備も進んできましたので、収益性の悪い鉄軌道事業に乗り出そうという篤志起業家は見当たりません。しかし地域としては、車を持たない交通弱者も抱えているわけですから、便利な鉄軌道は必要性が非常に高いといわざるをえません。となってくると その地域の行政責任を持つ地方自治体が何とかしなければなりませんし、それは日本国民の全てを対象にしますから、国としても地方自治体を支援しなければなりません。そして現在は法令所掌に応じて中央省庁からの補助・助成制度が確立されています。

 だからといって日の丸企業では国民が許しませんから、たとえば昔の政府組織の一部だった鉄道省は事業団組織の国有鉄道へ、さらに民間組織のJRに分割され、企業努力をすることになってきています。時代の流れでしょう。あるいは大阪市交通局は早くから都市行政のために市内の交通機関の一元化として路面電車とバス事業を行っていました。現在は路面電車から地下鉄へ換わっています。だから少し前までは民営の郊外電車のターミナル駅は 梅田、天六、天満橋、上六、阿倍野橋、難波にありました。そして急速に都市化が進んできた大阪府は 千里、泉北ニュータウンへの鉄道に新しく参入担当したほか、環状方向の鉄軌道として5大民鉄の協力を得て環状モノレールを主役となって事業の推進しました。

 既存の路線を持っている鉄道会社もたゆまぬ努力をしています。独占的に集めていた沿線住民利用者数は、就業日数の減少や在宅業務の拡大、道路交通網の整備によって自然減の傾向がはっきりと現れてきています。また運賃は認可制で硬直化しやすいので手をこまねいていては経営悪化に直結します。さらに電子技術の発達は改札・券売機器の更新を求めます。あるいは交差道路側から鉄道高架の話しがでると都市行政への社会的責任から多額の費用を要する連続高架化事業にも参加せざるをえません。いろいろな時代の進展に応じた経費負担を、駅の商業床の増大や住宅開発事業などの兼業で凌いでいます。対応していけなくなると、本業の運輸事業そのものも存続の危機にたたされて、南海電車平野線、阪神電車国道線のように廃線の憂き目をみています。

 このようにみてくると、鉄軌道事業者の最大限の企業努力も当然ですが、国や府や市の政府組織は自分の行政区域についての広さや目的に応じて、住民の公共交通を確保するのが当然の責務と理解されます。その意味では通常の試算では採算性に問題があるからと逃げていないで、何とか工夫は無いものかの努力に励まなければならないのは当然のことといえましょう。このように重たい課題が内在しているので、公共交通は国家的課題です。また地域にとっては地方自治体の課題であるといえましょう。

3 鉄軌道運輸事業のセットとして必要な施設と技術

 鉄道ファンの雑誌などをみていると美しい列車が快適に走っている写真を多くみかけます。しかし運転・運輸をするためにはこれを支える多くの施設と、高度な技術の従業員がいります。それらの項目先ず羅列しましょう。

3.1 車両は機械と電気の技術の集積物

 車両はなるほど鉄道会社の顔です。ある意味ではイメージ商品です。時代を先取りした快適で便利で利用者から好まれるように絶えず更新されているようにみえます。しかし1両あたり1億円もするので、税法上の償却年数がきたからといって廃車するのではなくて、いろいろと修繕をしたり、ローカル線に移して使ってます。使用期間によっては安全面から当然寿命がきます。路線が長くて大量の車両を保有している会社は、順次更新計画を立てやすいのですが、路線延長が短い会社は直ぐに硬直化がきます。また開業時に一度に製造すると大型修繕や更新の時期が一度に来てしまいますし、性能の異なった車両が同一路線上で混在運転されているのも問題が残ります。

 車両は車庫に帰って、乗務員も降りて夜を越しますので、保有車両数の置き場が必要です。そして終日使用されたので毎日検査があり、また一定の期間ごとに大型の点検保守が要ります。車体は機械・電気機器類の集積物ですから、点検には工場に備え付けた計測器と直接結線した自動化が図られています。一定期間を過ぎた部品は新しいものと交換されます。京阪電車や阪急電車のように車両数が多ければ、効率の良い流れ作業で集積の利益がありますが、車両数が少なくても同種の作業は欠かせませんので稼働率の悪い施設となります。といって近傍に他の鉄道会社があっても、線路幅や電圧が違うとそちらに回送できません。これらの施設費は経営の基本構造です。したがってある程度の規模の路線延長を一度に建設することがないと事業としても成り立ちません。

3.2 線路と駅構造物

 線路と駅舎は基本的な固定資産です。往復複線の車両占有幅は6〜7mで緩やかな曲線を含んでいても、目的地間をほぼ直線で結んだ連続の帯状です。道路敷地に軌道線路を敷設するときは、その両側に自動車の通行帯と歩道幅が要りますので最低でも25mくらいの敷地幅員が欲しいです。このような構造を法令用語では併用軌道区間と呼んで一般的な形です。かつての大阪市電はこの形式でした。天王寺駅前の近鉄百貨店横から南に伸びている上町線もこの形式です。ところが現地で見ていると、警察の指導があるのにかかわらず自動車が割り込んで、軌道敷まで違反車が走行しています。これではせっかくの路面電車が自由に走れません。罰則の弱いわが国では路面電車の効率は半減です。とすると自動車が自由に軌道敷地を走れないように何かの障害壁で防衛する必要があります。もう少しレベルアップすると、軌道線路は道路敷地から別のところに外して建設することになります。上町線も天王寺から走り出して、松虫から北畠間はこの形になっています。法令ではこれを新設軌道区間と呼んでいます。しかしこの形式を取ると、道路管理者は自分が自由に使えない敷地まで負担してくれるでしょうか。多分否定的で軌道業者の費用で用地買収することになりそうです。都市内の高価な用地の買収まで責任があるのでは、たださえ採算性が悪い鉄軌道業に新規乗り出す起業家は誰でしょうか。

 どうしても道路敷地の内で勝負したいときは、近鉄東大阪線の高井田〜新石切間のように占用許可を受けて地下にトンネルを作るか、モノレールのように道路の分離帯に細い1本柱を立てて空中を走ることになります。誰の管理する敷地に誰の融資資金・補助金を受けて作るかは、その権限を巡って日本では行政機関間では大問題です。

 この点は中央省庁の縦割法令がそのまま地方自治体にまで及んでいる日本と、自主独立のポリス都市が集まって連邦国家になったヨーロッパの国々との違いが根底にあります。例えば日本で道路施設は建設省で、交通管制は警察庁の下にありますが、ヨーロッパ型では地方自治体内で一元管轄されていることに表れてます。

 都市交通は市行政として、道路・軌道・建築物などと総合行政の時代がきていると思いますが、何分都市地域も農業地域も明確な境界意識を感じにくい日本のことです。どうしてこんなに違う規範意識が定着しているのでしょうか。国民意識に基づく話しですから数千年の歴史の産物でしょうか。中央省庁の再編成もまもなくです、縦割り行政の弊害をどこかの地方自治体から打ち破る新風を送る必要がありそうです。

3.3 変電所

 変電所は関西電力から高圧電気を受けて、路面電車の場合普通750ボルトに落として線路上に起電線として張ってあります。車両はパンダグラフやポールから架空線の電気を受けてモーターを回して走ります。そして制動をかけるとモーターを発電機に換えていくらかは電気をトロリー線に返しています。多くの車両が団子運転になって一斉にモーターを回そうとすると、細い水道ホースに蛇口をたくさんに着けてみても水は流れ出ないと同じ理屈で、その附近の電力量が不足し車両は走り出せません。ある一定間隔で電車が線路上に在るときも、類似の現象が起きますので、それを防止するためには、線路に沿ってある距離間隔で変電所を配置してあります。形式は違いますが大阪モノレールではほぼ4〜6qの間隔で変電所を設けてあります。この用地買収は任意交渉によらざるを得ませんので大変な苦労の連続でした。

3.4 信号・通信

 信号・通信は安全運転の基本施設です。専門的で高度な電気技術者に任かすことになります。小さい組織の場合、直ぐに人事の硬直化が襲います。どうしても線路延長の規模が大きいか、枚方の場合は地域を走っている京阪電車にお世話にならざるを得ません。大阪モノレールの場合も技能職員が育つまでの当分の間ということで関西5大民鉄とJRの協力を受けています。

3.5 車庫と整備工場

 車庫と整備工場の必要性は車両の項で述べたとおりです。そのためには相当に広い平坦な敷地を線路延長のほぼ中央付近に持つことになります。すなわち両最遠端駅までからの終電車の入庫と、朝一番の出庫の距離とそこへの到達運転時間を短くするためです。これは車両ばかりでなく、夜を跨いで勤務する乗務員の仮眠宿泊のためでもです。夜中に駅に車両を止めているのもよく見かけますが、終電車後の保線車が走れませんし、乗務員の労働条件の問題もあります。

 また車庫内は沢山の車両を並列詰めて留置しようとすると、線路間を渡っていく分岐ポイントがあり、静かな夜中に帰ってきた車両が分岐器を渡る騒音は附近に響きます。人気の無い場所や工場地域にあれば許されますが、住宅地に車庫があれば当然公害問題で、対策としては分厚い植樹帯で消音をはかります。都市計画法では準工業地域と決められています。この行政手続きは地方自治体の業務です。

3.6 駅務の切符販売・改札機器類

 駅務機器など最近のIT革命の波を受けて目を見張る発展です。便利で人力に代わる仕事を正確に早くこなしてくれます。鉄道業としても合理化の一環として積極的に取り組んでいます。たとえば関西では多くの民鉄と市交通局の共通乗車カードが普及しました。利用者としては1枚でどこの線路でも使えて大変便利になりました。大手鉄道会社が研究会を持って開発していった成果です。そのため改札機器を入れ替えました。中小鉄道としてもこの波に乗り遅れると利用者に嫌われます。そのためには自分では予期していなかった射程範囲を越える施設改造費を捻出しなければなりません。このような予期しない出費には融資してくれる強いスポンサーが欲しくなります。とするとどうしても財政力のある行政機関が資本家に加わっていて欲しいと思います。この例はなにもサイバネ機器に限りません。阪神・神戸大震災後の橋梁柱の補強などについても同じことがいえます。

3.7 運転に必要な運転指令や運転手・車掌

 運転指令と運転手・車掌・など列車の待ち時刻・距離間隔を正しく安全に走らせるための信号指令所をご覧になった方も多いと思います。路線図をはめ込んだ大型パネルに列車位置・分岐ポイントの状況を一目でわかるようにした部屋があります。通常の運転のときは勿論のこと、一旦何かが起きると2次被害へ拡大しないように的確に各列車の乗務員に指令を与える管理所です。運転度数や行き先方面の種類が多くなるほど複雑です。そのような施設と取り扱いが悪ければ正面衝突の大事故を起こした信楽線の悲しい事例を思い出します。そうしないための設備と日ごろの準備です。ここには実務経験者を中心の勤務体制がいります。また運転手はそれだけの訓練を受けた資格持ちを要します。通常1年間の動力車運転の座学と実務を受け、運輸大臣が行う試験に合格したものに限ります。運転手の人数が限られる中小規模会社では休祝日や緊急時などの配置には苦慮します。といって他の鉄道会社からの応急運転手の借り入れは線路状況に熟知していないのでは難しいものです。せいぜい年単位の出向受け入れです。この制約下で沿線に催しものが企画されると、多客で収入が増えるのは嬉しいのですが、別の問題が内在してきます。ともかく鉄軌道は最小規模・適正組織という課題を抱えてます。

4 どのように解決していったらよいのか
    
→図『土木施設のPlan(計画案)とPlanning(作業段階)』参照

 大型事業や採算性を伴う特許事業を進めるとき、どのような戦略を立てて課題項目を消化していくかの一般的なシステム図を紹介します。「別紙参照 土木施設のPlan(計画案)とPlanning(作業段階)。」 作業としては上段から下段に順次こなしていくのですが、手戻りや混乱を避けるためには、最下段の中味はどんな特性が欲しいのかを強く意識して、それを満たすためには その直近上段項目をどのような形で仕上げておかなければならないかを考えることです。そして下から上へと順次同様に考えることです。それが上段からの順調な手戻りの無い取り組みに欠かせません。

 さて枚方LRTに問題を移してこのシステム図を見ていきましょう。目的意識として最下段の枠は、市民に喜ばれる公共交通機関として 快適便利なLRTが走っている姿を想像してください。まず上段の構想をまとめることになります。敷設路線や駅間隔や運転速度・度数の輸送力をどう考えるかです。大阪圏の基幹鉄軌道網は大阪市内を核芯に放射線と環状線の組み合わせを骨子に、明治時代から整備が進められてきました。その考え方は運輸大臣による諮問・答申としてまとめられています。もちろん時代とともに都市人口は増え市街地も拡大してきましたので、改訂され路線の数はそれに応じて増えています。現在大阪市内は東西・南北方向の縦横十文字を大阪市交通局が、そして西側の大阪湾から時計回りに阪神電車、阪急電車、淀川を渡って京阪電車、近鉄電車、そして南海電車の民営企業が営業していて、それに重ねて国土幹線を担当するJRの神戸線、宝塚・福知山線、京都線、学研都市線、関西線、阪和線があります。全部で22路線がほぼ等間隔に広がっているといえます。それらを環状方向につなぐものとして、JR環状線(旧城東線と西成線と臨港貨物線の接続)、大阪モノレールがあり、さらに城東貨物線も客車運輸に現在工事中です。これを地図上でみるとなんとなく営業権域の分担が読めるような気がします。
 そのなかで枚方LRT線の予想路線図をひいてみると、JR学研都市線と京阪本線、阪急京都線を結ぶ環状方向路線が主体になりそうです。前章でLRTを含む鉄軌道事業については、その中味が各種専門的な職種の複雑性を整理統合したものと申し上げました。このような総合複雑システムのプロジェクトを俗にいう営業権域と行政の縦割り権限を整合していくのには、経験豊富な地元行政組織が先頭に立っていないとなかなか難しいとおもいます。その意味では枚方市ご当局がこの問題にかける意気込みが大切です。
 長山先生をはじめ皆様方のご努力で、枚方市長が必要性を認め「研究する」との努力姿勢を示されておられるのは大きく評価します。まったくもってこれから先の交通事情をにらみ、外国事情にお詳しい長山先生のリーダーシップの成果だと思います。私事ですが議会の答弁席に座っていたことがあります。「研究する」というのは、たとえば広辞苑をひくと「よく調べ考えて真理をわきまえること」と書かれています。議会レベルの専門用語としては「調べる」段階で終わっていて、その深さは、どの程度まで、その後の意思決定に結びついているのか、それは何年度を目標としているのか、それらの情報をどのような方法で公開するのか、などなどについては、これからということでしょうか。その意味ではもう一歩進んで、市ご当局に兼務でも、小さくても良い調査室の組織を設けて、さらに調査費も計上して、業務の責任体制を明確にしてもらうことが急がれると思います。大阪モノレールの場合 運輸事業を行う大阪高速鉄道株式会社の創設は、昭和55年12月(1980)でしたが、大阪府が地方計画に盛り込んだのは昭和42年頃(1967)で、その後企画素案が何度も提案され、紆余曲折を突貫消化したと世間で評価されていました。この歳月を皆様方はどのように受け取られていられるでしょうか。最大の問題は運輸事業として法令の許認可項目にある健全経営のためにどのような手法をとるかだと思います。そのために建設資金調達法や技術的専門的知識を持つ職員をどのような方法で集めていったらよいのか、そして人を雇うと雇用条件はなどと思います。このような前者の最大課題は市ご当局のご努力に頼らなければならないのではないでしょうか。また後者の専門技術を持つ職員の調達法は、ご当地には京阪電車が居られますから、市ご当局から正式な要請があれば、地域の社会的責任者としてご協力いただけるのでないかと勝手に推察します。これが事業化へのテーブルの第一歩と思います。

 そのようにして企画試案ができますと、次の段階は基本計画です。ある程度の調査を元に、関係機関が合い寄って事業化へと精度をあげて素案をまとめる合意形成(覚書などによる押印締結)です。ここまでくると姿も見えてきてきます。前捌きになる都市計画法(土地利用の制限と事業手続き)と道路法(軌道敷設占用許認可)を用いて、軌道敷地用地など基本施設が確定されてきます。
 次は整備計画です。専門職の職員が関係機関の支援を得て進めます。ここまでくると、明確な目標と目的意識がありますので担当者はファイトを燃やしてくれます。そして実施段階に入ります。私事になりますが 軌道法の業務が長かった関係で選抜され、大阪モノレール事業の立ち上げから建設・開業・運輸営業とかかわらせてていただき、その間上司先輩や同僚仲間とチームワーク良く頑張れたと思ってます。それらの記録として 事業遂行の思い出を3日間に渡ってテーマ項目ごとに座談会を開き、平成8年に大阪モノレール事業誌コンセプト集(長山先生に進呈済)にまとめました。これは私にとっては大型事業のシステム戦略論の実践編記録です。その理論編は「建設戦略論」として上梓(山海堂出版 1995)できました。振り返ってもこれらの体験を印刷物までの記録に残せたのを幸せと思っています。

 長時間に渡って私のつたない体験談を聞いていただいて誠にありがとうございます。ヨーロッパ諸都市もLRTに改良される前は路面電車と呼ばれていたでしょう。日本の地方都市では たとえば高知市内、松山市内、 熊本市内などにはまだ路面電車が活躍しています。日本の法令の元で街の公共交通機関として近代化に励まれて居られることと思います。どのような課題を抱えて居られるのでしょうか。 
長山先生を中心に当研究会がますます発展し、市民に親しまれるLRT軌道が枚方市を中心に周辺都市へ伸びて、美しい車両が走っていることが早いことを期待しまして、事業を立ち上げるという側面からの私の話しを終えさせて頂きたいと思います。長時間のご清聴 ありがとうございました。
(平成11年6月19日)


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