第2回枚方・LRT研究会講演会

「人にやさしい交通とLRT」

近畿大学理工学部教授   三 星 昭 宏

 今から30年くらい前ですけれども、京都で「市電を守る会」というのがございました。京都の市電が順次撤去されてきましたが、その原因が、車社会だということで、京都の市民の方々が作られた会であります。その後、道路が全て車に奪われてきました。今また、環境問題や渋滞問題、交通事故問題などで再び公共交通が見なおされています。特に、路面を走っていた電車を再び新しい形で、導入しようという考えはすばらしいと思います。

 古い路面電車に対して、今検討しようとしているのは、新しい「トラム」と呼ばれるものです。市民の方々の知恵で、その導入を検討して運動を高めていきましょう。
まず、OHPを見ていただきます。これはストラスブールのパンフレットです。私がかつて今

 で見た中で、もっとも美しい説明書です。デザインも素晴らしいし、コンセプトも素晴らしいと思っています。イメージも大事ということで冒頭に見ていただきました。こちらは、郊外部のイメージ図です。大阪でも大規模ニュータウンの中で、このような雰囲気を作るのも可能ではないかと思っております。

 まず、今日の話の構成について述べます。「わが国と世界の高齢者・障害者交通対策とアメニティ重視の流れ」、LRTとどんな関係があるかについては、この後に申し上げます。
次にLRTの事例をOHPで見ていただきます。私自身で撮ったものもありますし、他の方から、提供していただけるのもあります。

 それが終わりましたら、「人にやさしい乗り物としてのLRT」のお話をさせていただきます。
話に先立ちまして、キーワードを上げておきましょう。

 「LRT」は、多少は定義が国や、人によって異なります。軽量の公共交通機関ですが、狭義では路面電車を指します。「LRV」が、ライトレールビークルで、車両自体のことです。

「ノーマライゼーション」というのは、体のハンディーキャップにかかわらず、全ての人が、同じように生活し、社会に参加できるという考え方がです。

「バリアフリー」というのは、どこへ行くにも、バリアがあってはならないことです。車椅子の方にとっては、一段一段の階段が滝と同じバリアになるわけです。

「ユニバーサルデザイン」、これはちょっと聞き慣れない方も多いと思われますが、バリアフリーの発展したコンセプトとお考え頂ければよいかと思います。ユニバーサルデザインというのは、全ての人、目の不自由な人も車椅子の人も、健常者の人、全ての人に使いやすいデザインということです。

「スペシャルトランスポート」、これは本題ではありませんが、あまりご存知ない方が多いと思いますのでお話致します。高齢者・障害者の為の、特別の交通手段で、ヨーロッパ・アメリカで普及しております。タクシーとバスの中間的形態として、体の不自由な人や高齢者の方が電話で予約するドア・ツー・ドア小型バスのことです。東京では百団体を越えています。大阪では十団体を越え、今後の整備が課題です。正確には百十から百三十あると思われます。

「LRTのある景観」、これはLRTという乗り物が単なる乗り物ではなくて、まちに馴染み、まちの風景を形作ることです。つまり、まちのインフラストラクチャー(インフラ)ですね。

 次に「TDM」は、トラフィック・ディマンド・マネージメント。日本語では「交通需要マネージメント」と呼ばれております。車の自由度を抑えようとする考え方は従来からありますけれども、根本に立ち戻って、自動車交通の根源的需要から考え直していこうということです。その背景には、地球環境問題や道路混雑などがあります。とりあえず総合交通対策ということで、都市内から車を排除して、中心部には公共交通で入ってもらおうという考え方です。TDMと致しましては、最近鎌倉で自動車を周辺部で止めて、バスで都市部に運ぶ実験が行われました。同様な試みは、小規模なものは最近あちらこちらで出ております。

 これは、LRT問題を今後考えて行く上で一番大切なことだと思います。こういった研究会を行うこと自体も、合意形成のプロセスだと思われます。自動車の抑制を含まないと、LRTは成立しないわけであります。さらに財源の問題、経営の問題とか出て参りますので、市民的国民的合意が必要であります。

 その他、車両は何と言ってもノンステップ車両です。需要に関しましては、転換需要と新規需要。転換需要は、現在車やバスや歩いて動かれている方のうち、どれだけがLRTに乗ってくるのか、これが転換需要であります。LRTが出来たため、新規交通が発展する場合、これを新規交通といいます。言い方を変えれば「潜在需要の顕在化」です。LRTは、転換需要だけでなく、新規需要もかなり期待しております。

 中心市街地の活性化対策としては、先ほども申しましたように、インフラの一つとなってきます。歩くこと。この「歩くことの重要性」は、また路面交通のLRTの話とつながってきます。

【 高齢者障害者対策 】

LRTが高齢者や障害者にやさしい乗り物として注目されています。そこで、高齢者・障害者交通対策そのものについて述べておきます。こういった対策の意義を大きく分けますと三つ挙げられます。一つはノーマライゼーションという思想です。福祉分野の課題で申し上げますと、参加平等、機会平等をベースに致しまして、当時者の自立そのものを、公共の方からいきますと支援、当事者と市民の方からいきますと共生を目指していくことと考えられます。二つ目は、高齢化社会です。そのなかで社会活性を保つには何と言っても高齢者や障害者の方が社会に出て行くと言う事が大事でありまして、その為の社会基盤整備が焦びの急と言えます。三つ目が交通サービスにおける、アメニティ向上の流れです。交通の場が単なる移動の場ではなくて、この場をコミュニケーションの場、くつろぐ場、芸術の場にしていこうという大きな流れです。あと若干補足します。国際化です。国際都市の条件と致して、バリアフリー化があります。つまり福祉交通施策を行っていく事が国際都市の条件になるだろうと言うことです。

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ヘルシンキ
撮影:三星昭宏

【 LRTの事例 】

 ヨーロッパを走る超低床電車の仲間たち、最新車両が数多く入っています。

 服部さんから引用している写真です。ウィーンは駅舎と一体になっています。シェフィールド(英国)は失敗とまではいきませんが、うまく行かなかった例といわれております。

 チューリッヒ、アメリカのサンノセ、フライブルグ、フライブルグも注目されています。、都心活性化と一体化し、歩行者を含めて、全体が活気のある空間となっています。

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ストラスブール
撮影:三星昭宏

 サクラメント、リスボン、南米でもLRTに力を入れています。ベルリン、グルノーブルは一番よく引用される例です。イタリアのトリノ、ドイツのビュルツブルグ。ドイツでは、多数の町がトラムを持っており、多くの最新車両が導入されています。ケルン、マンチェスター、オーバーハウゼン、ブリュッセルなどで最新式の新しい車両が入っています。これは日本の熊本です。デュッセルドルフはこういうイメージ。歩道上にテラスを出しまして、コーヒーをのみながら。、その横を市電が通っていく、ヨーロッパ独特の風景ですね。

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ストラスブール
撮影:三星昭宏

 アムステルダム、ヘルシンキ。ヘルシンキのこの写真などもそうですね。歩道の横を路面電車が走っている。ストラスブールの最新型の車両です。最新のものは20センチぐらいの床高です。歩道の高さ20センチ、前後とするとバリアフリーということです。歩道高にご注意下さい。

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アムステルダム
撮影:三星昭宏

 バリアフリーという点では、グルノーブルのLRTの方が優れていると思います。グルノーブルは車両からステップが張り出してまいります。これで完全なバリアフリーを達成しています。ドレスデンです。旧東側らしくいろんな問題をかかえているわけですが、都市交通の足は路面電車でがんばっている。これがまちの顔にもなっています。

 参考までに、トラムと張り合ってヨーロッパを席巻しておりますのは、ノンステップバスです。3年前の時点で、ドイツの主要都市では、新車購入の7割ぐらいがノンステップバスです。同じように欧州を中心としてのバスのノンステップ化が急速に進んでおり、わが国では、最近導入され始めました。ノンステップバスは止まってからニーニングといって、油圧等の装置で車体を下げ、さらにステップを出して、道路上から車椅子が直接入るシステムです。トラムとノンステップバスをうまく組み合わせて路面交通を確保していきたいものです。これは3年前のイギリスのノンステップバスです。

 これは熊本のパンフレットからとりました。わが国唯一の新型車両です。設計はドイツです。でも握り棒など、障害者用のチェックが不徹底のように思います。しかし基本的には非常にすばらしい車両です。

【 人にやさしい交通とLRT 】

@ 上下移動がない

 地下鉄と違いLRTは、地上平面内で利用できる、つまり平面を歩くことと連動します。地下に入って参りますと、歩くこととの連動性は悪くなってまいります。つまり、平面でそのまま乗れて、降りてすぐ買い物ができる。これが第一のポイントです。

A 乗降のノンステップ化が容易

 これはノンステップバスも非常にがんばっています。LRTはバスに比べますとエンジンがいらない。乗降のノンステップ化が容易です。

B 騒音振動が少ない ・動きが安定している

 騒音振動が少ないというのは、快適性にとどまらず、ほかのメリットも持っています。車内アナウンスが聞き取れる会話がしやすいなどです。レールがあるという安定した動作が有利な点をもたらしてまいります。

C 地下と異なりまわりの状況を把握して風景を楽しめる

 これは上下移動がないこととあわせましてヒューマンスケールの乗り物であることを意味します。鉄道は周囲を楽しむというより早く移動することが中心であります。地下鉄では何も見えません。それに対して路面電車は、周りの風景を楽しめ、状況が把握できる。高齢者にやさしいと言われる所謂です。

D 環境にやさしい

 それから何と言っても環境にやさしいことであります。

 

 さてこういうことを考えまして望まれるLRTのやさしさ仕様について、バスの時の経験からいろいろあげてみます。まず騒音振動が少ないこと。車椅子対応からいきますとスライドまたは昇降するステップ、車内固定装置があること。車椅子から普通のいすに移ることをトランスファーといいますが、それが可能な足元スペースと座席があること。握り棒や手すりが安全で十分なだけ確保されていること。車椅子用の低位置下車合図ボタン、料金ボックス等の高さもそれに合わせること。

 次視覚障害者対応です。握り棒に点字シールをつけておきたい。下車合図も手元で出来るようにする。できるだけ付き添いをなくして一人でも乗れるようにしていきたい。それから弱視者用の識別しやすい設備の色です。

 聴覚障害者対応ということで、電光表示板のような案内表示。音声案内は必要に十分なものを。

 その他、内部障害者、高齢者、荷物の多い人などの下車合図ボタン付の握り棒、大きめの表示類、さらにここにありますように、ビークルだけではなくて、停留所、待合所も工夫したい。道路、施設から停留所までもバリアフリーにし、健常者の利用性と両立させるユニバーサルデザインを考えていく。

 前回、長山先生の講演の時、質問に出た、LRT軌道は目の不自由な方に危険ではないかという点です。これは、磁気警報システムなど新しい技術開発も役に立つと思います。歩道の点字ブロックも工夫したい。また、欧米のように健常者のヒューマンエイドも重要と思います。

【 TDMと公共交通政策 】

 LRTの導入はTDMとセットであると思います。自動車交通抑制の必要性は前に述べましたが、ドライバーの方が、うわぁ、えらい渋滞して不便になった、こんなんやったらLRTやめようとなっては具合悪いわけです。どことどこはどういう混み方しますよということを、予め情報開示してその覚悟をして頂くことです。出きるだけそうならないようにということを考えますが。新しく幹線道路が出来る所では導入しやすいでしょうね。いずれにせよ自動車交通制御プランの市民的合意がLRT導入の基礎となります。

 次に、公共交通政策。現在の行政では、車や公共交通を総合的に考えるという、総合交通体系政策をつくる仕組みになっていないですね。LRT、バス、鉄道、スペシャルトランスポート、タクシーなどの交通機関をうまく組み合わせ、連携して機能を発揮させる新しい仕組みを作り上げたいと思います。これは、日本の都市全体の課題です。枚方から提案を発信する意義は大きいと言えます。

 LRTは当初、何らかの補助が必要になると思います。そうなりますと、納税者としての立場からの合意形成が必要だと思います。LRTが成立する要件として、一般的に言われる条件を申しておきます。都市規模では20〜80万人ぐらい。輸送力は、1〜2万人/日、速度20〜40q/h、整備コスト10〜20億円/q、人口60人/ha以上となっております。システム的には、鉄道とバスの間でバスに近い方である。バスとの関係で申しますと、ノンステップバスを全市に張り巡らし、LRTのネットワークとバスのネットワークを連絡して、便利な市民の交通ネットワークを作り上げてはいかがでしょうか。

 今の京阪とかJRの鉄道については、うまく連携して、LRTが増えて京阪さんもお客さんが増えたというようになりたいですね。LRTの走行位置について述べておきます。直進を考えるならば、道路の中央を走るのが一番有利ですね。左折とか右折になりますと、左折の場合は左側を走るほうが有利です。右へ右折するならば、なるべく右へ寄せておくほうがいいんですが。

 それぞれ一長一短があります。中央走行は、自動車の進入禁止を取り易いですし、バランスもいいのですが、路側側通行のLRTというのも捨てがたいメリットがあります。何と行っても歩道から直接入れるということです。交通島にあたる電停が要らなくなるという点でもメリットはあります。

 それからネットワークについて述べます。都心貫通型、これは先週、長山先生が、ストラスブール都心貫通型なので、どうもあれ一本では不満であるとおっしゃいました。まだ、初期的形態でしょうね。それから、拠点連結型。この拠点連結型というのは、例えば、枚方で言えば、現在の枚方市駅と副都心的な場所を結ぶ。それをさらに発展していきますと環状型、巡回形が出てまいります。さらにそれを郊外に伸ばすことになりましょう。枚方では、東西方向の連結が、弱いですね。路線問題は、みんなで集まって討論をしたほうがベターでしょう。
なお一部、地下に入ってもよいだろうと思います。それから、鉄道との相互乗り入れも検討してみたい。これは、軌道間サイズが問題になって参ります。鉄道の枝線として一つの機能を発揮していくと面白いですね。最新車両は時速100qでも出ます。

 それから、連結車両数に関しては、法律か通達で路面電車に関しては、長さは決められています。これも弾力的に考えたいものです。

 それから、経営と採算、これはまた大変大きな問題でありまして、どなたが枚方でやるのか大きな問題です。

 岡山はでは、鉄道会社さんでは初期投資まで、なかなか出来ないし、補助もこれといって期待できるほど出ないということで、市民から一口5万円ずつ募って、車両・設備の一部を市民が所有する運動が起こっております。それと事業者さんに貸与するという考え方です。いろんな知恵がありますね。その他関連事項として交差点、信号処理などの技術問題がありますが、ここらで終わらせていただきます。なお、インターネット情報ですが、広島、岡山、前橋のホームページは非常に充実しております。

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