大阪府議会議員 中村哲之助
皆さんこんにちは。中村でございます。今日はLRT研究会で講演をするようにと言われたんですが、むしろストラスブールへ行った際の「率直な感想」を述べさせて頂いた方がいいんじゃないかと思います。今回こんな役割を負わされましたのは、実は藤田さんの方から先般、「中村議員のいつも議会報告という形で出している機関紙・21広場の中に、ストラスブールへ行ったと書いてますねぇ」という話がありまして、「ええ、行ってきました。いい勉強になりました」とお答えしたことが発端です。そのストラスブールの詳しいことは、私のホームページを見てもらうと良くわかるようになっています。ということで、ちょうどみなさんのお手元に行っていると思いますが、「統合と多様性を学ぶ」ということで、17ページになる長いレポートでありますけれども、これは私がちょうどヨーロッパから帰ってまいりまして、3日ほどでまとめたものです。旅先で私は、毎日寝る前に30分〜1時間ほどはその日のことを整理する癖がありまして、大体のことはメモできています。それに帰りの飛行機が十時間余りありますし、私はそういう旅の記録を書いたりするのが好きなもんですから、暇つぶしに文書を作るのには最適です。帰りの飛行機の中で約4〜5時間くらいはこれに使って、旅行記の7〜8割方は毎回、飛行機の中でできてしまうんじゃないでしょうか。そんなことで作ったものを正直に載せました。議会の公費で視察に行ったわけですが、ミラノなんかでは、レオナルド・ダ・ビンチの「最後の晩餐」という作品も見せていただいて、そんなんも見てきましたよということも、みんなここに入っております。
◇府議会の出張は?
それでですね、お話させて頂く前に、府議会の今の出張のありかたということについて少しだけ触れさせていただいた方がよくお分かり頂けると思います。
海外のことを勉強するというも大変大事だということで、希望があればですね、各党・各派から、こんな所へこういう課題の調査研究のために行きたいと、まず申請をすることになっているんですね。それで、各派の方から希望を出すわけですが、私が民主党議員団の担当者・責任者をやっておりますのと、たまたまこの会のメンバーにもさせて頂いているということもありましたので、ドイツのフライブルグと、フランスのストラスブールを希望先として出しました。いわゆる都市交通ということで、特に私が思っておりますのは日本の場合はですね、幹線道路網の整備というものはかなり他国に比べては行き届いているんですけれども、街づくりと連携した地域の交通と言いますかね、こういったものが随分遅れています。そういう中で、LRTというのは非常に大きな役割を果たしているということを聞いておりますので、ぜひここへ行きたいと、こういうことで希望いたしました。それから、フランスのパリ郊外の、いわゆるデファンスの再開発問題なども含めまして、こういった所もぜひ行きたいと言いました。1週間程度ですから、あんまり遠い所へは物理的に不可能です。だから、以上のような要請をいたしました。
そうしますとまた、自民党のみなさんの方からですね、特に泉州だとかあっちの方の議員が中心になりまして、行き先の提案が2〜3ヶ所ありました。今、中国産の本当に安い繊維類が入ってまいりますね、それで、岸和田からあっちの方もみんなですね、毛布はダメになる、こういう服の関係も軒並みダメになってきて、そういう中で、イタリアのミラノでは繊維産業の振興の大変な取組み(立て直し)を計って非常に効果があったということなので、我々大阪の経済再生という意味で、ぜひミラノを見学したいという希望が出ました。
それからですね、東大阪、八尾の方へ行きますと特に中小零細企業、物づくりの会社が非常に多いんですけれども、これもまた同じように景気が悪くて大変苦しい状況になってる。また、空洞化ということで下請けやらみんな向こうへ出て行くということで、これもえらいことになってしまっています。そういう中小零細の物づくりを中心とした企業がどういうような形で世界中の競争に勝ってやってきたかということを勉強したいという希望もありました。
こういういろいろな要望が出てまいりましてですね、各党の世話人が相談をします。そしたら「うちはA.B.Cへ行きたいと言ったけれども、Aだけは絶対譲られないが、B.Cは削除して、あんたとこの提案したX.Yに協力してやってもええな」というようなことで、最終的にですね、Aグループ、Bグループ2班に分けて、最初はそれぞれの希望の調査を行い、途中から合同で一緒に行ったらいいじゃないですかとこういうことになりました。私どもが言い出し兵衛のストラスブールをまず第一の優先順位にしましてですね、それから同じ交通問題でも自民党のみなさんはベネチアの方に行きました。それから後、ミラノで合流して、繊維産業の問題、それからフィレンツェの近くにプラ―トという所があってそこを視察しました。読んで頂いたらありがたいんですが、そこは中小のいろいろな工作機械に取り組んできたということでありました。そういう中でストラスブールへ行ったということなんです。このストラスブールもですね、LRT乗ったりするのにどうしたら良いのかなということで、最初希望を出した会派自身で向こうとコンタクト取ってやらなければなりませんから、どうにもこうにもいかんということでした。
そこで私、ふと思い出しまして、「貞方さん、この前、確かLRTの研究会でヨーロッパ行かれましたなぁ、どないしたんですか?」というような話をちょっと聞かして頂いて、そこから始めたんです。しかし最終的になかなか難しいということでした。視察に行って、具体的な話を現場で聞かせて頂くこともできないということでは何もなりませんから、ひとつ向こうの総領事館を通じて計画しようということで、総領事にダイレクトに話をしてですね、このストラスブールの市の方で丸1日お世話になるということになって、寄せて頂いたんです。それで、ストラスブールでは、総領事にもお会いしてお礼を申し上げました。また、総領事館の方々からは今日のEUの状況や、現地で活躍する日本企業のことなどもお話を伺いました。ここに資料としてですね「LRTストラスブ―ルを視察して」という裏表の資料がありますね。それから「統合と多様性を学ぶ」これは私がプライベートに私のホームページに掲載しているものです、報告集として。それからですね、もうひとつ「美しく・逞しいストラスブール(フランス)を学ぶ」という2枚で裏表4ページの分がありますね。これはちょっと追加で出した分ですが、実はこの4ページの分が議会の海外調査報告の公式の報告書になっております。誰もがですね、議会の視察は、この場所に役所の方もおられるからご承知だと思うんですが、まぁ事務局まかせでね、議員は行ったら後の報告も何にもせんというのが多いんですけれども、これではあかんと、議員がやっぱり責任を持って全部レポートすべきだと、大阪府議会の場合はしっかりとやっておりまして、それで全部一から十まで誰もが整理するのは大変ですから、それじゃストラスブールは中村さんと△△さんと○○さんですよ、次のミラノは☆☆さんと◇◇さんと長山先生ですよというような調子でですね、全部責任分担を決めまして、誰もそれ以外しないという意味じゃありませんけれども、それで最後帰ってきたらだいたい2週間程度の間にですね、きっちりと報告書をまとめてそれを出すということになっています。それを全部トータルしてひとつの報告書として、議会に発表することになっているんです。その分の私の持ち分がこれだということです。
それと「ストラスブール市LRTの最新事情」として10ページ、裏表ですけれども、メモも書いて頂けるようにしておきましたが、これが今日のおしゃべりをさせて頂こうかなと思っている中身でして、向こうで感じたことをまとめました。これも時間の関係で全部やってるとなかなか進みませんので、公式の4ページの分でですね、これを中心にご報告をします。
◇強い指導力に脱帽
ストラスブールは素晴らしい街だというところから始まっておりますが、我々向こうの役所に寄せて頂いて、向こうの市のナンバー3の方にお出迎えをいただいて懇談をした後、ここにありますクリストフ・ナギヨスさんという方、この方が具体的な担当されている方ですが、この人から約2時間ほど今までの経過だとかこういう問題があるというようないろいろなお話を聞かせていただきました。そして、私たち議員の側から、逆にこれはこうじゃないんですかとか、これはどうしているんですかというような、いろいろな質問も出しました。その質問につきましては私のホームページに概略を出しております、この3ページに1から10までの項目を挙げております。
@ 市役所へ来るまでに見てきた、また地図の上でも示されている数多くの水路・川などを利用した水上交通への考え方はどうか
A 今後の延長計画と財政負担はどのように予測しているのか B LRTを核として、どんな街づくりをイメージしているのか C 毎年の運営に要する費用負担はどの程度になるか
D 利用料金の考え方、無料化などは検討されたのか E 現在の公営を民営に、また民間参入を進めるという計画はあるのか F 導入時の市民の考え方、反対運動などはどうであったのか G 環境汚染問題とのかかわり、住民の今日での評価はどうか
H 延長計画に対する住民意識はどうか
I アルザス地方(ストラスブール市のあるフランスの東北部)と、共同体との税財源の配分はどうなっているのか
またこの公式の報告集の2ページにありますように、市役所に来るまで見てきた、また地図の上でも示されている数多くの水路や川などを利用した「水上交通」というものはトラム以外には考えてないんですかとか、料金はどうしているんですかとか、こんな赤字ばっかり出して市民は何とも言わないんですかとかですね、まぁそれはいろいろとやりとりをいたしました。その項目だけここに挙げさせて頂きました。 そこでまず、非常に感心しましたのは、この公式の部分の報告集の1ページの点線で囲んだ部分です。1ページの一番下にですね。ちょっとここを読んでみたいんですが、ここを読んだらまずご理解頂けると思います。
あらゆる交流に欠かすことのできない人と物の移動をどうやって組織し、促進していくのか。街の中のアクセスをどうやって高めていくのか。それも、こんにち、フランス全体で見られる、都市内・都市周辺移動に使われる車の割合が、ここ20年間で2倍になるという傾向に歯止めをかけたい。移動手段の選択は自由だという意見もある。しかしこれでは、開発の罠に一直線だ。公共空間が車で溢れ返り、街の歴史的な役割が失われてしまう。街は我々の家があり、商店があり、文化があり、出会いがある特別な意味を持った場所なのだから。
我々は80年代末から、都市交通政策に一つの明確なアプローチを選択し、長期的視点で実行に移してきた、その柱は3本だ。
@ 車の通行と駐車を管理・削減すること
A 公共交通と自転車を優先し、マイカーの代替手段を推進すること
B 公共空間に手を入れ美化することによって、歩行者に最も優しいまちづくりをすること
こうして我々は、持続可能な発展を断固選択した。経済発展がなければ社会の一体性は生まれない。経済発展と我々を取り巻く環境の永続性を両立させるには、まず何よりも一貫性のある交通政策が必要なのである。
これはですね、ストラスブール市の市長・広域共同体、これは27の周りの町村が集まってやっているんですが、その長のローラン・リースさんがお話しになったことです。
本当に私はここに尽きるのではないかと思っております。それで、こういうような中で選択されたのがLRTであったということですね。90年代の当初は車を完全にシャットアウトするんだという発想でやってきたと仰っていました。しかし、アンチ車ではやっぱりやっていけない。やはり、共存をしなければならないということで、多様な交通手段があるわけですから、その中心にトラムを据えていこうとされました。お互いが共存する、そして歩行者と自転車にとって一番優しい街であればいいではないか、こういうような形で取り組んで来られたということでした。それから、トラムはただ単に交通政策だけではなしにですね、街そのものと、街の中の公共空間を見直すための絶好のチャンスだと捉えたということでありました。それで、地下鉄ではなしにトラムにしたということです。ここで、ちょうどお手元にお配りした10ページ分の資料の説明のですね、4ページ目に出ておりますのでご覧いただいたらいいんですが、上から3行目にですね、現在のトラムの導入については、1989年市長選挙の際の重要な争点であった。と、こういうようにまとめました。当時ですね、もう今から15年ほど前ですが、社会党と保守党がマニフェストを出して争ったそうです。この時に社会党側はトラムを打ち上げました。そして、保守党側は地下鉄を造るということで選挙を戦ったようです。この結果、緑の党の出身のカトリーヌ・ロットマンさんが当選されまして、結果としてトラムを新設していくということが承認されて、今日までやってきたということです。
こういうことで大きな政治課題、選挙の争点としてトラムでいくか、地下鉄でいくかというのがあったということですね。参考に申し上げると、トラム=LRTはだいたい世界各国、ヨーロッパが中心ですが、平均で1kmの建設費が30億円かかると言われております。1,000mが30億円ですから、1mの建設費は300万円です。これを日本に例えますと、具体的な例を出した方がいいと思うんですが、大阪空港から門真の駅までモノレールが出来ましたですね。あのモノレールは1mが1,100万円です。1m進むのに1,100万円かかっています。それから大阪市営の地下鉄、これは平均ですが、あくまでもやり易いところ、やりにくいところありますが、この地下鉄の建設費は1mが3,000万円です。地下鉄の駅から駅は平均1.5kmありますから、地下鉄ひと駅をもし延ばそうといたしますと、450億円のお金がかかることになります。トラムは、地下鉄の1割で建設が出来るということに数字上はなります。あくまでも数字上はね。ただ、地下鉄の場合は立ち退き補償だとかそういったことが、ほとんど発生いたしませんから、そういった部分は別といたしまして、建設工事そのものについては非常に安い。それと、ヨーロッパの場合は日本と違いまして、特にこのストラスブールの場合は非常に道路幅が広かった。道路幅が広かったから工事が非常にやりやすいという、そういう面もあったと思います。そこで、そういうようないろいろなお話を聞かせて頂いて、現実にLRTに乗らせて頂きました。ずーと端までナギヨスさんのご案内で乗せて頂いたんですが、私は非常に革新的な乗り物だというふうに思ったんですね。
◇トラムに乗ると目から鱗が落ちる
それは、四つあります。一つは非常にモダンです。外観を見ただけでもわかります。この中で何人かの方がストラスブールへ行かれたんですね。私はどなたが行かれたかちょっとわからないんですが、非常にモダンな乗り物だということ。二点目に、思ったよりもスピードが出ます。平均20kmは出ていると思います。ですから昔の市電のようにですね、車が線路上にいるため、非常に遅くてノロノロとしているということじゃなしに、本当にすーっとすべるような形で出て行って止まりますから、これすごく速いなぁと思いました。もしこんなトラムにドーンと当ったらえらいことになります。そして三点目は、車と違いますから無公害です。周りに排気ガスを出すわけじゃありませんし、本当にきれいな乗り物ですよね。最後に、乗り心地ですけれども、すごくいいものでした。乗るまでは昔の市電のような思いを持っていましたが、ものすごく低いですから非常に景観もいいですよね。
そういうことで、このシステムがですね、大きな成功したのはやっぱり3ページですね。いくらいいものでも、具体的で市民のみなさんに理解されやすいいろいろな施策展開を忘れては成功しません。そして、この市長さんのように強い指導力・決意があったとしましても、それだけで成功するわけがありません。さらに強い指導力・決意があってもですね、あんまり強引すぎると、それが逆に作用してしまうということも、これはしょっちゅうあるわけです。
さて、市街地への車の乗り入れを抑制し、トラム利用者の利便を図るために、トラム利用客の駐車場までも視野に入れて「パーク・アンド・ライド(P&R)」という施策を出したわけです。この施策では、幹線道路を下りたところに設置されている広大な駐車場、4,100台と言われるこの駐車場がポイントとなっているんです。そして、これに協力した人に対する魅力的な制度としてですね、何時間停めても料金は一緒ですよということ。そして、都心に近いところに停めた方が料金は高く、都心から離れたところに停めたら停めるほど、料金は安くなってるわけですね。それも、どこかに載せておきましたので、後でお手元の資料でご覧ください。(注1)そして、おまけに、車に乗ってやってきて、トラムに乗り換えるためにそこへ車を置いた人に対してですね、3人なら3人、4人なら4人、その車に乗って来た人の都心までの往復の乗車券をタダでくれるわけですね。だから車で行ってちゃんと停めて、都心へ行く方にはいっさいお金を取らないわけですね。乗車賃はいらんわけですよ。車置いてもですね、この際の乗車賃が一定額いるんだったら、乗り換えずに車で行ってしまえということになるんですけれども、トラムに乗るお金、それも乗ってきた人数分タダですから。だから、1台に2人が乗り、2台であれば4人ですが、そうじゃなしに1台で4人で行ったらですね、4人分チケットくれるし、おまけに駐車料金は1台分でいいし、そして遠いところへ停めたらさらに駐車料金が安くなりますから、遠方で停めるというようになります。非常にこれは政策的にうまく考えたやり方だなというように思いました。
そういうお金の方からですね、気持ちを切り替えさせるというひとつのやり方と、二つめには見た目にも非常にLRTが美しいんです。そして周りを見るとストラスブールという仏独戦争がたびたび起こって領有権を争った地域でフランス風の建物があれば、ドイツ風の建物もある、本当に中世の名残を留めた実にきれいな街です。また、プチフランスという地域には昔の建物がそのまま残っているし、またカテドラル(大聖堂)もありますから、本当に素晴らしいと感心しました。そういう中世の名残を留めた街の景観にきっちりと合った乗り物で、違和感がない。そういう違和感のないトラムに乗って行きますと、またその軌道がですね、時々石畳のようなところへ行きますと、ドンドンドンドンと少し音がするのが気になります。けれども、ちょっと行きますと軌道敷の中に芝がはってあるんですよね。だから、広い芝生で埋まった道路の中に線路が引いてあるような感じで、なんか乗っていますとね、芝の上を早足で散歩しているような気持ちになるんですね。乗っていても快適な気持ちを持たせるし、非常に乗り心地もいい、感覚的にもいいということで、私は良く出来た乗り物だなと思いました。写真が今日ないので残念ですが、天井からステップのところまでが、一面ガラスだと言えるほどに、広い、広い視野がありますから、視界が開けておりまして、だからその意味でも本当に車内が明るいですし、それとこの辺を走ってる京阪電車でも、地下鉄でもそうですけれども、座席と入口があってですね、その中に持ったりするところがありませんよね、つり革以外は。ところがトラムはですね、座席のところにちゃんとこう持ったり、真ん中にポールのように立ってですね、歩行者がそれを持ったりして足腰の不自由な人でもそれを持っています。また立ち上がったり座ったりする時にも楽だとか、車椅子あるいはベビーカーを押している人も本当に何の妨げもなく、広くそういうスペースを取っているから、またそのまま乗れます。車椅子のまま自分ですっと乗って行けるというような感じでしたから、なるほどこれはいいものだなと、ストラスブールへ行って改めて思ったような次第です。
このパーク・アンド・ライドなんですけれども当初、予測はですね、LRTとセットで1日に5万人ぐらいが駐車してくれるだろうという予測だったようですけれども、現在では1日に7万人の方がこのP&Rを利用されているということで、当初の予測以上にすごい効果を上げているなと改めて感じました。それから公共交通機関を利用される方、公共というのはいつも長山先生も仰いますけれども、役所がやっているから公共というそういう意味では私は使っておりません。あくまでもみんなが利用するという意味ですが、公共交通機関が43%もこのトラムの導入によって高まったということを、このLRTを視察してという一番下の方に書かせて頂いておりますが、その43%増えたんですけれども、いま駐車場はA線で3ヶ所、B線で4ヶ所、4100台ですね、延べで。
それから、その次のところにありますように、公共交通機関が43%増になるということは、必然的に自家用車がドンと減るわけですから、バスそのものもまた混まなくなりますので、渋滞しないということで、バスの全面的な見直しができるようになりました。ですから、正確にバスが来るようになりましたから、トラムのないところは多くの方がバスに乗ってというようになっていきますし、どれに乗り換えても料金が一緒ですから、より便利になります。
そして、自転車政策はヨーロッパNo.1だと言われるほどに、自転車専用の道路も並行して整備をしていったということで、トラムを中心としたすべての移動手段が共存する立派な街づくりをやって来られたのではないかと思います。そして、この公共交通機関の利用だけではなしに、9番目に挙げさせていただきましたけれども、人の移動そのものも今までに比べたら26%増えたということです。これは人口が当然増加をしておりますので、その人口増加に伴うものは、この増えた内の2分の1。そして非常に移動しやすくなった。障害を持っている方も高齢者や妊婦など誰でも外へ出やすくなったということによるものが2分の1含まれております、とこういうようなお話でありました。
◇日本でトラムは成功するか?
そういうようなことで、感心したんですけれども、一番最後に書きましたように、指導力、決意、それから住民の理解がなかったら到底これらのことが成功するわけではありませんので、果たしてこれを日本の国、そしてこの枚方に当てはめた時に、そしたらこのLRTは実現できますか?と言われたら、私はやっぱり、今のままではまず「100%無理」だろうと思います。
それは正直申し上げて、この中に掲載しておりますから、後でご覧いただきたいですが、ストラスブールの場合は必要な費用の30%しか料金収入が上がっておりません。ですから、年間運行経費が100億円としましたら30億円しか入ってこないわけで、その不足分を全部役所がお金を出しているということでした。
ですからこれは、株式会社などの民間企業がこのLRTの建設に力を入れていこうということには当然なりません。税をつぎ込まなければ、これはできません。そうなった時に今日の経済状況、そしてまた費用対効果ということが、大きな争点になっているわが国の体質と言ったらいかんですけれども、国民性と言うんでしょうか、そういうところから考えると、この30%しか料金収入が上がっていない、こういうような問題というのは非常に難しいのではないか。そして、限られたこれだけの狭い道路幅、今でも大変な状況ですから、この道路幅でどのような形の活用ができるのか。そして、車にどれだけの規制がかけられるかということなどを考えますと、非常に難しいなぁというように思います。
ですから、私たちはこれからLRTの導入だけではなしに、様々な交通政策を展開していかなきゃなりません。けれども、まず必要なのは市民のみなさんに、自分自身もそういう街づくり、交通政策に積極的にかかわるんだということ、そういう意識をみなさんにお持ちをいただかないとですね、「そんなもんやる言うたかてあかんで、そんなもん反対や、そんな金のかかるやつあかん」というようなことで、第三者と言いますかね、評論家的な形で言われる場合はですね、これは絶対成功するわけがありません。 ですから、だれもがこの交通政策の中心的な役割を担って頂くことができるかどうか、それともうひとつは、宗教観と言いますか価値観と言いますか、そういったものが深く、深く私はかかわっていると思うんですね。このストラスブールの街もそうでした。イタリアの方へ行ってもそうでした。例えば大聖堂より高い建物は建てないとかですね。
それと、私たちがヨーロッパへ向かった日は日曜日で、日本を出発して時差がありますから、同じ日曜日の午後2時頃にフランクフルトに着きました。フランクフルトからストラスブールまでバスで3時間余りかかけて国境沿を移動します。高速道路を1台のトラックも走っておりません。ドイツでは土・日は完全にお休みです。だから、そういう商売のトラックは一切走りませんとガイドの方が言われたので、高速道路をずーっと見ていたのですが、3時間ほどの間、1台の業務用トラックも見つけられませんでした。走っているのは緊急車だけです。そういう国民性といいますか、お国柄というかそういうものが深く根付いています。
そしてもう1つ感じましたのは、ドイツからフランスへ移る時にガイドの方が「皆さん!一寸あれをご覧になってください、ここは元、国境の検問所だったんです。これが、この前までの検問所だったんですよ」と。昔は皆さんも経験があるでしょう、パスポートを出していちいち検問をしていました。今はEU圏は移動が自由で検問も何もありません。「これがドイツとフランスの国境か?それは、今、何に使っているか」と質問しますと、「全部難民の収容施設に転用しているんです」と答えます。今、高齢社会になって、若年労働者がどんどん減少しています。そういった中で難民を受入れて若年労働力に代わる労働力として、今、国の方針として受入れているようです。そういういろいろなその国の国柄といいますか、そんな政治的・社会的ないろいろな問題等を聞かしていただきながら、我々はまだまだ視野が狭いなぁと思いながらドイツからフランスへ移動しておりました。
そういう国柄、価値観というのでしょうか?教会・聖堂より高い建物は絶対に建てないとか、そういうような不文律なものがあるようで、宗教観とか、毎日の生活の中に深く浸透している中での毎日の暮らしという事。そして、その中の交通政策・経済政策が打ち出されているということで、良い勉強をさせて頂いたと思っております。
LRTを深く研究されているベテランの皆様方に素人の私がお話をさせていただくということは恥ずかしい次第でありますが、これからの何らかの参考にして頂きたいと思っております。ありがとうございました。
補足:日本の変り様を嘆く元日本国籍の人・在欧者等
現地で通訳・ガイドをお願いした人は、元日本国籍の女性の方々で、留学をしたり、いろいろな形でその国へ行って縁があって現地の方と結婚されて子供を育てられて40〜50歳台という年齢に到達されて方々に通訳をして頂きました。
今回も何年か前にヨーロッパへ行ったときと同じことを言われました。おっしゃられる事は共通しております。40〜50代になりますと、両親が亡くなったり、自分の兄弟の子が結婚されたりという冠婚葬祭などがあって、何年ぶりかに日本に帰られます。日本に帰って、「なんと日本は変わったなぁと感じます」と言われます。帰ってきたら、混み合った電車の中で中学生やら高校生のような若いのが我が物顔で座席を占領して、お年よりに席を譲ろうともしないし、電車の中にべたっと座り込んで周囲の人に迷惑をかける、電車の中でお化粧をする、携帯電話をする、信号も守らない、何でこんなおかしなことになったんやろうということで、帰る度に益々ひどくなってくるということをつくづくと仰っていました。私は日本で育って日本人である事に誇りを持っています。自分自身の子供や孫が一緒に付いて来る訳ですよね。ここがお母さんの大きくなった国ですよということを自慢できませんと嘆かれます。もう日本で育ったいう事が恥ずかしい思いさえする。ということを口を揃えて皆さん仰いました。マナーやモラルが失われていくい今の日本の状況をこんなに残念なことはありませんと。
それともう1つは、現地企業の日本人の役員とかそれなりの立場で来られている日本人でドイツ・フランスに来ておられる方が、交流の中でおっしゃるんです。夫は後3〜4年で定年になるという頃、日本に帰って来いという辞令が出ました。奥さんや子供も日本に帰りなさいといわれたら、当然、夫婦・子供揃うて日本に帰るものと皆さん思うでしょう。じゃないんですよ。夫は日本へ単身赴任するんですよ。妻や子供は日本よりこっちの国がいいと言う。自己責任を果たす、いろいろな人間関係を考えたら私自身もここで住みたい。「日本に帰れ」という辞令は出たけれど、夫だけが2〜3年間辛抱して日本で仕事してきます。定年になったらフランスへ、あるいはドイツへ、オーストリアへ帰ってきてここで暮らしたい。ここの方がずーっとええと。殆どの方おっしゃいます。
それを聞いて私は残念で残念で仕方がありません。日本の国がおかしな国になってきた。子供の事・自分のことに責任を待たない無責任な国になってしまった。こんな国で子供の教育をやっていられないと思っているのではないかと。モラル・マナーが平気で無視される社会じゃなしに、もう少し良くなるようにそういう分野でも頑張ろうと、あらためて海外へ行くと思うんですよ。今回もものすごくそんな思いがしました。
※1
(1)運行時間帯は、朝4時から翌日の午前1時までで、現在、1日あたりの延べ利用者数は約19万人である。市の人口規模と比較すると相当な割合。
(2)多様な料金体系:チケット価格の設定は、例えば大人普通料金で1.2ユーロ(1時間)であり、これはロンドンの地下鉄の半分程度である。また、1ヶ月35ユーロで乗り放題のチケットや、学生向けには20ユーロの学割や、夜間利用チケットなど利用者層に応じた多様な料金体系となっている。
(3)P$R(パークアンドライド システム)を採用しており、駐車場(現在3ヶ所)の収容能力は4100台である。その利用促進策として、LRTの往復チケットを車の利用者に支給する方法を採用している。