MOMO乗車記
監事 平尾賢二
ローレル賞、グッドデザイン賞、第1回鉄道賞とトリプル受賞したMOMO,この車両に乗るために岡山に来た。岡山電気軌道が2002年初夏に導入した、乗るたびに魅力的で、人と地球に優しい新世代の電車である。
8時40分に、メインストリートの桃太郎通りを東に直進する出発点の「岡山駅前」電停に立った。時刻表を見ると,MOMOの始発は、9時25分である。ここで待っているよりも僕の方から迎えに行ってやろうと、来ていた7000型の電車に乗った。後の乗車口から大きく足を上げて乗り込む。ほぼ満席の乗車率、ご婦人方が多い。「後楽園前」で右折し、次の「県庁前」で前の乗降口から殆んどの方が降りられた。「小橋」を渡る時、アーチ橋の向こうの岡山城に見とれているうちに岡山駅に上がっていくMOMOに気付かなかったらしい。この路面電車は、バウンドしながら進んでいく。吉備団子製造元の「広栄堂前」ではプラットホームがない。しかも右折している。それに、線路をはさむ形で両側の家並みが迫って狭い感じがする。ここで乗り降りする人達は怖くないのかと心配しながら通過した。「門田屋敷」を過ぎれば終点の「東山」、ここまでなんと140円であった。
正面に「東山公園」左右に岡山電気軌道の車庫があり、左手前に本社がある。早速、本社に駆け込んだ。『一日乗車券をいただきたいんですが』『受賞記念のカードも』というと、受付の女性が丁寧に対応して、日付をスクラッチすると有効になる乗車券を受け取った。『3枚買っていただいた方にはプルプルがつきます。』とMOMOのかわいいプルプルを手にすることができた。
待つことしばし、東山電停に向かって外観はライトシルバーメタリック、キーカラーとして一部にコバルトブルーメタリックを使い、ツートンカラーのMOMOが帰ってきた。「街と人を結ぶ21世紀の乗り物LRV」は、博多と湯布院を結ぶ特急列車「湯布院の森」号のデザインをした岡山県出身の水戸岡鋭治氏によるものである。
プラットと同じ高さの両開きドアを足を上げることなく乗車する。中に入ってびっくりした。木の暖かさ、緩やかなカーブのデザインで座り心地がよく、連結部横には「ラッキーベンチ」が設置され、混雑で座席に座れない時、軽く腰を預けることができる。より多くのお客様に安全快適な移動が楽しめる「チョコットベンチ」があり、ちょっとお菓子を載せてみたり、ドリンクも置けてしまう「キャンディテーブル」車内中央には、親子や仲良しどうしで座ることのできるような「サロンベンチ」も設置されている。他にも身障者対応スペース、シティビューライトである壁灯、MOMO便局の走る郵便ポストも設置されている。日本とヨーロッパのコラボレーションによって生まれた個性的な電車を体感した。
(MOMOBOOKより引用)滑らかな加速で、すり足で走っている感じの出発である。バウンドも心なしか,初めに乗った路面電車よりも少ない。途中から乗ってこられた、おばあさんと孫二人の会話『こんな電車初めて乗ったね。』と。次に乗ってきた初老の紳士は、見渡したあと、サロンベンチに腰掛けられた。低床の中央廊下は、木の板を斜めに組み込んだ模様である。連接の前部と後部のベンチの茶色の色具合を変えている。車椅子用の乗車口の柱には、車椅子を留めるフックが着いている。乗り心地も良い。広い窓からは、外の景色をゆったり楽しむことができる。来た時に心配になっていた広栄堂前の停留所を見ると、道路に黄色の枠で囲んだグリーンベルトがあり、電柱に「電車は、歩道でお待ち下さい」と標示がある。これなら少しは安全かな、と思ったことだった。
車内観察をしているうちに、桃太郎通りの直進路に入った。所々、低木の植え込みが見える。電車の下にちょっとした花畑がひろがるのも、そう遠くないだろう。
超低床路面電車導入概要の中で、水戸岡氏は、『魅力的な乗り物として、一人でも多くの人を惹きつけることができるよう、利用者の求める快適さを演出する。車内空間の充実と、弱者に対するきめ細かい人的サービスに取り組み、21世紀の用と美に合ったRVを走らせる。』と述べておられるが、こうしたコンセプトは、今後の路面電車導入に際しても重要である。さらに、日本の車両技術の飛躍的向上とあいまって、都市景観にマッチした個性的な路面電車がいつの日にか、枚方の地を走ることを夢想しているうちに終点に着いた。